また、殺された主が胸をものすごい力で刺されたことから見て、下手人は背丈があり、力のある奴に違いない。それに主は背が低く、これまで喧嘩などしたことはないというから、そのとき背が高い下手人とそんなに長くやりあえるはずがない。では、櫃の引き出しの多くの刀傷はなんだ?それに引き出しの前で誰かが座ったあとがあるのは?
ここまで考えた岩風は、急に思いついたように質屋に向かった。そしてかの引き出しをじっくり調べたが、引き出しの閉め方がおかしいのか、どうも一段一段ちぐはぐになっている。
「これは?」と思った岩風は引き出しをみんな開けて外に出し、一段一段、うまくしまるように、そして引き出しの表の傷跡がつながるように丁寧に閉めた。すると表の刀傷が二文字になって見えたではないか?
「そうか?あいつか!」と岩風はその足で役所に戻り、その夜は久しぶりにぐっすり寝た。
翌日、岩風は役人から許しを受けて、牢に放り込んでおいた四人のうち三人を家に帰し、王七という客であったものを残した。これに王七は「どうしてあいつらを出して私だけを残すんです?」と聞く。
「王七、いいから俺について来い」といい、手下に王七を引っ立てさせ質屋の主が殺された部屋に来た。
「王七!これを見ろ」と岩風が引き出しを指差していう。これにそれまで知らん顔していた王七は、表の刀傷を見て顔が真っ青になり、その場にへなへなとしゃがみこんだ。実は、引き出しの表には刀傷で「王七」と刻んであったのだ。
「どうだ!これでもお前は下手人じゃあないというのか」
これに王七は、命だけは助けてくれと乞い、白状し始めた。
王七はどこから聞いたのか、質屋の主がかなり値打ちがある九竜壷という骨董品をかなり安い値で手に入れたというので、それを買い取り、高く売りつけて一儲けしようと考えた。そこでその日の夜に王七は大事な話があると主を訪ねたので、主は妻や店のものを遠ざけた。
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