次の日、高玉成がかの部屋に行くと物乞いは立ち上がって礼をいう。
「これはこれは、先生。このだびはお世話になりました。もうすぐ死ぬところをお助けいただき、なんと言っていいやら。しかし、わしの足はまったくよくなったわけではないが、酒と肉がほしくなりましてな。長い間口にしておらんゆえ」
これに高玉成は下男が自分の言いつけを聞かず、酒と肉料理を与えなかったことを知り、早速下男を呼んでひどく叱りつけた上に棒で叩いた。そしてすぐ厨房に酒と肉料理を持ってこさせた。
これに下男は恨みを持ち、その夜に、物乞いのいる部屋に火をつけた。こうして部屋は燃え、跡形もなくなったので、高玉成は嘆き、物乞いの屍を葬ってやろうと焼け跡に入ると、なんと物乞いは何事もなかったようにグーーグーといびきをかいて寝ていた。これに驚いた高玉成と屋敷のものは、この物乞いが凡人ではないことを悟った。
このときから高玉成はこの物乞いを大事にし、客室に移って寝泊りさせ、足が治ると風呂に入らせ、新しい服に着替えさせ、この日は病人がもう来なくなったので、その客室に来て物乞いと話をした。
「ところであんたの名前は?」
「ああ、わしかね。わしは陳九と申す」
こうして高玉成は暇があるとこの物乞いと話をし、相手がかなりの物知りだということに驚いた。また物乞いは碁を打つのが好きで、対局するたびに高玉成は負けてしまう。そこで高玉成は毎日夜になると、物乞いと対局した。
こうして半年がたったが、今ではとても元気な物乞い、高玉成の屋敷を出るとは言わないし、高玉成も家を離れろとは言わないどころか、物乞いが好きになり、一人でいるとなんかいらいらしてくる。それに客や友人が来て食事となると高玉成は必ず物乞いを同席させる。
しかし、ある日、物乞いは急にここを離れると言い出した。これに高玉成は慌てたが、物乞いはどうしても行かなくてはならないという。仕方がないので黙っていると、物乞いは自分は簡単な酒肴を用意したので高玉成と別れの酒を酌み交わしたいという。
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