「陳九どの、どうして私にご馳走するのだね。あんた懐がさびいいのに、これからどうするつもりだ。私ら二人は今ではよき友となったのに。ここにいなされ」
「そうはいかないのじゃ。それに、私の出す酒肴などたいしたことはない。わしはあんた一人と酒を酌み交わすのですぞ。いいですかな」
「それは・・しかし、どこで?」
「近くの花園にてな」
「え?近くのあの花園?」
「そうじゃ」
「では、いきましょう」
ということになり、高玉成は物乞いについてかの花園に来た。
時は冬であったが、不思議なことに高玉成は花園に春が来たような暖かさを感じた。こうして大きな東屋に入ると近くで小鳥が囀っていた。石卓の三方を囲んだ水晶の屏風から、周りの景色が光って見えた。物乞いは高玉成に座るよう進め、自分は向かい側に座った。すると一羽の鸚鵡が飛んできて近くに止まったので、物乞いはにっこり笑い、「酒じゃ!」と一声。すると鸚鵡が飛んでゆき、すぐにいくつかの料理と徳利や杯が宙に浮かんできて卓に置かれた。それは高玉成が始めて見る料理で、物乞いに勧められるまま口にすると、酒も唸るほどうまい。これを満足そうに見ていた物乞いは、庭に向かって「踊れ」と命じると、水晶の屏風がふと消え、外では多くの蝶が飛び舞い、そのうちに蝶たちはきれいに着飾った娘にかわり踊りだした。これに高玉成はびっくりし、口をあけてこれを眺めている。すると物乞いが、化けろと小さく叫んだので、娘たちは不意に恐ろしい夜叉に変わり、気持ち悪い声を出した。これに高玉成は杯を卓の上に落としてしまった。そこで物乞いが「こら!」と声をかけると夜叉たちは蝶の姿に戻りどこかへ飛んで行った。落ち着きを取り戻した高玉成は庭に出た。空には明るい月が昇り、その月をみて酔っていた高玉成は思わずいった。
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