二人だけになったあと王七がことをはなしたところ、主は壷は客のもので、あんたには売れないと言い張った。そして何度いっても断られたので、怒った王七は短剣を取り出し、蔵の鍵を出せと迫った。これに主は、おとなしくなり、蔵の鍵を持ってきたので王七は思い切り主の顔を殴った。それにひっくり返った主は引き出しの前にしりもちをつき気を失った。そこで王七は蔵の鍵を開け、中を探し始めた。そのうちに主は気がついたが、顔が痛いばかりか、腰をやられたようで動けない。
「これはいかん。やつにやられる」と思った主、何とかして後ろの引き出しから短刀を取り出すと引き出しを閉め、その表に「王七」という二文字を刻んだ。すると、蔵から王七が出てきて、例の壷が見つからない、いったいどこにあるんだ、出せ!と短剣を突き出し、主を脅かす。しかし、主は知らんと言い切るので、王七が主の胸倉をつかもうとしたところ、主は後ろで握っていた短刀で構えた。
「あれ?おやっさんもそんなものもってんのか!」といきり立った王七は足で主の短刀をけり落とし、主を引き起こして柱の前に引き連れ、壷を出せと迫ったが、主はいやだと言い張る。これに王七は気が狂ったのか、短剣を振りかざし、思い切り主の胸を刺した。体が大きく、力のある王七なので、なんと短剣は主の胸を刺し通して柱に刺さった。これを見て我に帰ったのか、王七は怖くなり、そこを逃げようとして蔵の鍵をまだ自分が持っているのに気付き、あわてて引き出しを開けて鍵を中にしまい、引き出しを閉めたときに、その表に「王七」という二文字が刻まれていることに気づいた。あわてた王七は、引き出しをすべて開け、順を乱して閉めて「王七」という二文字がわからないようになったのを見届け、また壁にも出鱈目に傷をつけ、こっそり逃げ出したのだという。実はこれに奥にいた妻や店のものは気づかなかったのだ。
岩風はこれを聞いてゆっくりと頷き、ぐったりとなった王七を引き立て役所に戻ったわいな。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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