中国の民謡の中には、力仕事をするときの掛け声の歌が数多く伝わっています。「音楽の散歩道」、今週は、その中から船歌をお届けします。
まず、中国の母なる川、黄河の流域ではやっている船歌を二曲ご紹介します。黄河は、中国北部を流れる大河です。全長約5464キロで、長江についで中国二番目に長い河です。黄河流域は、中国文明発祥の地であり、歴代王朝の都が置かれました。黄河の上流と中流が黄土高原を通っており、大量の黄土が川に流れ込むため、黄色い河と名づけられたのです。
黄河の上流と中流は、山間地帯や高原を流れ、地形が険しく、水流が激しいので、船の航行には非常に厳しいところです。しかし、昔から、河の男たちはこの河に逞しく挑戦しながら、豪快な船歌を数多く残してくれました。これらの歌は、船頭たちの日ごろの仕事の中に根付き、元気が良く活力に富んでいます。
黄河の上流と中流ではやっていた船歌の名曲、「黄河には入り江がいくつ?」という歌は、掛け合いを通じて、船頭たちの気持ちが伝わってきます。「お前、知ってるかい?黄河にはいくつの入り江があるのか。入り江には何隻の船があるのか。船には何本のかいがあるのか。また、何人の船頭が働いているのか知ってるかい?俺は知ってるよ。黄河には99の入り江があり、99の入り江には99隻の船が浮かび、99の船には99本のかいがあって、99人の船頭が船を漕いでいるんだ」と歌っています。もちろん、この99という数字は、漠然とした数字で、数の多いことを表しています。
掛け声の歌は、働く人が仕事の中で作り、歌い上げた民謡です。それは仕事に伴って生まれたもので、みんなで一斉に歌うことによって、みんなの動作を統一させ、気合を合わせ、疲労を軽減する役割があります。また、仕事への情熱を高めることもできます。ですから、メロディが簡潔・豪快で、力強く、音楽のテンポと仕事の動作のテンポがよく合うことが、これらの掛け声の歌の特徴です。歌を聞いて、働く人の気合と仕事の様子がひしひしと伝わってきますね。続いても、黄河の船歌で、中国中部の山西省に伝わる歌、「船漕ぎ歌(ふなこぎうた)」です。「黄河の水は休むことなく流れ、船はこの黄河を泳いでいる。私は毎日船を漕ぎ、浅瀬に乗り上げないように、必至に荷物を運んでいる」と歌っています。
伝統的な仕事の多様化に伴って、掛け声の歌もますます多種多様になります。たとえば、海での魚とり、木の伐採、河での綱引き漁、埠頭での荷物の運搬などにあわせて、船歌や、木こり歌、綱引歌、荷卸しの歌、田植歌など、様々な歌があり、それぞれがその働き方の特徴と密接なかかわりがあります。
船歌は、船を漕いだり魚とりをする時など、水に関わる仕事をするときに歌う掛け声の歌です。水路や天気がよく変わることから、仕事もとても複雑です。ですから、掛け声の歌の中では、船歌がもっとも豊富にあります。
次は、中国北部の黄河から南部の長江へ移りましょう。中国西南部、四川省に伝わる「川江の船歌」を聞いていただきたいと思います。川江は四川省と湖北省を流れる長江の上流に当たります。長さ1030キロ、長江の中で、もっとも自然条件が複雑な区間で、三峡ダムがこの川江に建設されています。川江には、流れが穏やかで、水面が広い水域もあれば、両岸には絶壁が切り立ち、川の流れが曲がりくねっている上に速い危険な所もあります。昔、木造船がこの川江を航行する時は、舵取りが音楽のような号令を出し、船頭たちの動作を指揮しますが、これに対して、船員たちは統一した掛け声と舟漕ぎの動作で答えます。掛け声は、水流の変化と漕ぎ方にしたがって、緩やかになったり、速くなったりして、豊で多様なメロディを聞かせてくれます。
ところで、李白の詩にこんな有名な詩があります。「蜀道の難は、青天に上るよりも難し」。長江の上流にある川江は、水流が激しく、両岸の険しい地形で、命を奪われる危険さえありました。しかし、三峡を出入りするこの航路はどんなに危なくても、中国の西南部と東部をつなぐ黄金の水路でした。かなり長い期間にわたって、チベットや四川、雲南、貴州の物産は、ここを通って、長江下流の豊かな地に輸送され、さらに海外に運ばれます。また、長江下流の物産は、ここを上って、西南部の山間部で販売されていました。昔、川江で歌われたこのような船歌を聴くと、河の男たちの命をかけた健闘ぶりが目の前に浮かびます。何度聞いても飽きない曲ですね。
さて、番組の最後は、中国の西南部からいきなり北上し、黒竜江の支流、ウスリー江に響き渡った船歌、「ウスリー船歌」を聞きましょう。漁業と狩猟生活を送る中国の少数民族、ホジェン族の暮らしを歌っています。(文:周 莉)
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