「うん?これをわたしに?」と孔一が聞くと、雁は羽毛をくちばしでつまむと孔一の耳にかけた。すると、孔一には雁の言う声が聞こえたのだ。
「あなたは命の恩人です。わたしはこれから南の方に飛んでいきます。その羽毛をつけていればわたしたち鳥の言葉がわかるのです。わたしは来年戻ってきますからね」
雁はこういうと、空に舞があり、名残惜しそうに一回りしたあと南のほうに飛んでいった。
さて、このときから 孔一は往診に出かけるときは、決まってかの羽毛を懐に入れていた。こうして帰る途中で鳥の鳴き声を耳にすると、さっそく羽毛を耳にかけて鳥に近づいた。すると木の枝では鳥たちが面白いおしゃべりをしていて、時には世間話であたり、時には若い雄が、同じく若い雌を口説いているのであった。
と、ある日、孔一が往診を終えて帰途に着き、林の近くで一息ついて、いつものように羽毛を耳にかけると、近くにいる鳥の話す声が聞こえた。そして孔一はびっくり。実は鳥たちはこんなことを話していたのだ。
それは、三日後に大きな嵐が起こり、それに卵ぐらいの大きさの雹がひざ下ぐらいまで積もるというのだ。これに孔一は慌てて屋敷に帰り、妻にこのことを話した。すると妻は草をたくさん買って来て一緒に屋根の瓦の上に草を敷いたあとで、孔一に嵐と雹のことを隣近所に知らせに行かせた。ところがこれを聞いた隣近所は「そんな馬鹿な話はない」と一笑し、遠慮しながらも相手にしない。これに孔一自信も、鳥の言うことなど信じられるだろうかと反省し始め、自分の家は嵐と雹に備えたものの、難しい顔して二日を過ごした。こうして三日目になったが、その日は朝から空模様がおかしく、昼前に空は真っ暗になって強い風が吹きはじめ、そのうちに雷が鳴り響き、なんと氷の入った盥をひっくり返したように卵の大きさはある雹がものすごい勢いで降ってきたではないか。
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