老若男女から大歓迎を受けた最大の集落、肇興トン族大寨の中を早朝7時、散策しました。集落の中を近くの山を水源とする小さな川が流れています。昨日の夜の喧騒が別の世界のことだったように、集落の中は普段の暮らしに戻っていました。中心部の通りの両側は、旅館に改造された家々や、現在改築、新築中の家、さらに土産物店、バーなどが並んでいます。いずれも、古くから伝わるトン族独特の二階建て、三階建ての伝統的な建物で、集落には、大小五つの鼓楼も配置されて、歴史豊かな落ち着いた雰囲気を感じさせます。
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糸繰り |
牛も住人 |
牛や馬を連れて農作業に出かける夫婦、川に下りて洗濯する女性、家の前で木綿の糸繰りをする老婆、黒味を帯びた布を木槌で叩いて艶出しをしている女性もいます。村人の仕事は、いずれも棚田での米作りや野菜作りなどの農業を中心に、刺繍、銀細工、織物などを副業にしている様子でした。豚が日なたで寝そべり、鶏やアヒルが放され、牛や馬が行きかい、犬が走り回っています。
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水辺は洗濯場 |
田植えは6月頃 |
昨夜の歓迎の宴では、面白いハプニングがありました。花橋あるいは風雨橋と呼ばれる立派な橋の上で、民族衣装をまとった若い男女が、トン族大歌と呼ばれる伝統の合唱や踊りを演じていた時、山から戻ってきた牛が老人に引かれて、舞台が乱れるのもかまわず堂々と橋を渡って帰って行ったのです。そして今朝、地区の一軒の家の前では、食に供される豚が処理され、その悲痛な鳴き声が、集落の中に響き渡りました。すべてが普段どおりです。
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野良仕事の準備 |
子牛も一緒 |
観光のために集落を開放し、伝統文化の歌や踊り、さらに結婚式などの儀式まで再現して客を喜ばせる大サービスの裏では、したたかに昔ながらの暮らしが生き続けていました。民族衣装で着飾って歌や踊りを披露した綺麗な娘さんが、普段はごく当たり前に米作りや畑仕事をしていて、ここで暮らすのは楽しいと言ったことが心に残っています。
どれほど観光化が進み、文化が見せものとして利用されても、こうした若い人たちが、少数民族としての誇りを失わず、のびのびと暮らして行くことができれば、それも時代とともにある少数民族の新しい生き方なのだろうと感じました。(文章・写真:満尾 巧)
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