「これはどうも。こんなときにお邪魔しますな」
旅人はこういうと、中に入ってかまどに近寄り、冷たい手をかまどの火に当てた。
「おばあさん、鍋の中は一体なんですかな?」
「え?いや、うちは貧乏なもんですから、なんにもありませんよ。鍋の中はお茶です」
「お茶?年を越すというのにお茶をわかしているのかね?」
「ああ、わしは自分が食べるだけのお米があればいいと思って何も買っていませんよ。それに、あんたも見てわかる通り、わしはかなり貧しいので何も買っておらんよ」
これを聞い旅人、しばらく顔をしかめてうなっていたが、部屋の隅にあるものを見て目を輝かせた。
「おばあさん、そんなことはない。あんたの家にはたいした宝物があるワイ」
「え?宝物?冗談言わないでくだせい」
「冗談なんかじゃない。こんなときにあんたみたいな人のよいばあさんに冗談がいえるもんですか」
「そうかね?で、旅の人の言う宝物は一体どこにあるんだね?」
ばあさんは不思議そうに家の中を眺める。
そこで旅人が言う。
「ほら、あの隅においてある石の大きな臼だよ」
「え?あんな汚い臼がかい?」
「ああ。あれはたいしたものだ」
「たいしたもの?」
「うん、まちがいない。あれは宝物だよ」
「あれが宝物?」
「ああ。どうだい?おばあさん、あの臼をこのわたしに売ってくれんかね」
「あんな汚い臼かい?売れ物にならんだろうに?」
「いやいや、わたしの目にはまちがいはない。どうだい。このわしに売ってくださいな」
「そりゃあいいけど。あんなものをいくらで?」
「安心なさい。安くは買いませんよ」
「じゃあ、いくらで?」
「そうじゃのう。金百両でどうだい?」
「え?金百両だって?」
ばあさんは、目を丸くし驚いている。
「どうだい?売ってくれるかな?」
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