今度は清時代のお話です。題して「閻魔さまのお返し」
静海県に紹さんという読書人がいた。紹さんは家が貧しかったが、この日は母の七十の誕生日というので、町で美味しいものを買い、先にそれを庭にある小さな壇の上に供え物として置いた。そしてその前にひざまずき、地面に叩頭して頭を上げると、なんと、壇の上の供え物がすっかりなくなっていた。
「ありゃ?いったいどうしたんだ?」と紹さんは首をかしげたが、なくなってしまったのでどうしようもない。そこで考えた挙句、部屋に入って母にこのことを話したあと謝った。これを聞いた母は、親孝行者の息子のことだから、どうせ自分を喜ばせようと思って話しているんだろうと思い、ニコニコしながら「お前の気持ちはわかるよ。ありがとうよ」と答える。これに紹さんは、母が自分の話しを信じていないと察したが、どうにもならず、悲しい顔をして黙ってしまった。しかし。紹さんは、このことが頭に残り、いつかは何とかして母に喜んでもらおうと思った。
さて、その一ヵ月後に、都で官吏になるための試験をやることになった。そこで紹さんは友達から何とか金を借り、都に向かった。
そして、都への旅の途中で、一人の男が道端に立っており、紹さんがくるのを見て、行儀よく声をかけてきたので紹さんは少し驚いた。
「あんたはいったい誰だい?ここで始めて会う私に何か用かい?」
「いえいえ。お前さんとははじめて会うのではござらん。一度会っておりますよ」
「え?会ったことがある?そうかなあ?」
「ま。それはあとにしましょう。実はうちの主があんたに会いたいといいましてね。私はここであんたを待っていたというわけでね」
「ええ?あんたの主?誰のことです?」
「まあ。会えばわかるはず。それにどうしてもあんたに来てくれということでね。なに、そんなに手間はかけませんよ」
こういわれて紹さんは、引っ張られるような感じでその男についていった。こうしてある楼閣に入っていった。すると真ん中の殿堂の中にすごいひげを生やしたお偉方がすわっているので、いくから怖くなった紹さんは、あわてて跪き叩頭したところ、そのお偉方はなんと席を立ち、自ら紹さんを支え起こし、隣の部屋に用意してあった宴席に招いた。これには紹さんきょとんとしている。
そこでそのお偉方は、紹さんに座るよういうので、紹さんが言われるがままに座った
「紹どの。驚かれたことだろうが、実はわしの部下がこの間、あんたの家を通りがかり、腹をすかしていたので、そこもとの庭の壇に供えたものを食べてしまったのでござるよ」
「え?庭に壇に供えたものを?」
「いかにも」
「そうだったのですか?私もあの時はびっくりしました」
「いや。いや。黙って人のものを食べてしまい、わしもこのことを知ってから、その部下をこっぴどく叱りつけましたが、どうか、その部下を許してやってくだされや」
「それはいいですけど」
「わしは知っておる。あの日はそこもとの母の誕生日だったということを」
「そうですか」
「実にすまないことじゃ。そこもとの母にすまない。あ、そうそう、言い遅れたが、わしは四殿の閻魔でしてな。さ、今日は少しの酒と肴を用意したので、存分に召し上がれや」
こういわれ紹さんは、すでに怖さは感じなくなっていたので、出された酒や肴を遠慮がちに口にし始めた。これを見て閻魔さまも安心したのだろう。自分も飲み食いし始め、紹さんの杯に酒を注いだりする。
こうして飲み食いし終わったので、閻魔さまは小さな袋を懐から取り出し、紹さんに渡した。
「これは路銀にしてくだされや」
紹さんこれを受け取り、礼を言ってその楼閣を出たとたん、楼閣はふと消え、そこは森の入り口であった。これに紹さん驚いたが、酒肴は本当に口にしたし、かの袋を開けると確かに銀貨が入っているので、少しも迷わず、旅を続けた。こうして都でのことを終えた紹さんだか、かの袋には半分の銀貨が残っていたので、それを使って母にたくさんお土産を買って帰途についたわい。
そろそろ時間のようです。来週またお会いいたしましょう。
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