今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
この時間は、キツネにまつわるお話です。題して「キツネの古里(こり)」
「キツネの古里」
むかし、むかし、ある若者がいてとても貧しく、ぼろ小屋に住み、自分のものといえば九本のざくろの樹があるだけだった。そこで人々は若者のことをざくろ(石榴)兄さんと呼んでいた。
当時、ここら一帯には賈財という役人がいて、欲張りで腹黒く、それにずる賢い手下がついているものだから、賈財は貧しい人々を騙したり脅かしたりして、多くの土地や家を自分のものにしてしまい、なんと、ざくろ兄さんのざくろの樹までもほとんど奪い取ってしまった。
こうしてざくろ兄さんには一本のざくろの樹しか残らなくなった。
その年は日照りが続いたので、ざくろ兄さんは樹に水をやるため、いつも遠くの川から水を汲んできたりし、この樹を大事に大事にしていた。こうして秋になり、樹には見事なざくろがいっぱいなった。
と、ある日の夜。樹の近くで休んでいたざくろ兄さんは、何かの獣がこっそりと樹に近づき、ざくろを盗もうとしているのに気づいた。そこで兄さんは、静かにそのものに近づき、これをすばやく捕まえた。が、捕まえた途端、それが一人の若者に変わってしまったのだ。ぎょっとした兄さんが思わず手を離すと、その若者は急に跪き、「ざくろ兄さん、お許しください。私も好きで兄さんのざくろを盗みにきたわけではありません。どうかお許しください」
これにざくろ兄さんは驚き、月の光をかりて相手を見ると、それは、ぼろぼろの服をまとい、腹をすかせて頭がふらついている若者であったので、心の優しいざくろ兄さんは、いくらか気の毒になり、「よし!今日だけは許してやる。その代わりこれからは人のものを盗んじゃ駄目だぞ」といって、一つのざくろをもぎ取り若者に与えた。これに若者は驚き、ざくろを受け取ると、頭を下げてどこかへ行ってしまった。
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