で、ざくろ兄さんは、それからはざくろを食べたり、野生の果物を口にしたり、または力仕事をしてから食べ物をもらったりして何とか日々を凌いでいた。
次の年のある日、ある若者が自分のぼろ小屋に訪ねてきた。そこで誰だろうと小屋をでてみると、相手は不意に跪き、ざくろ兄さんに一礼してからいう。
「兄さん、私を覚えていますか?」
「え?覚えているかって?」と兄さんが、相手を見つめ顔をしかめた。
「忘れたのですか?去年のあの晩、兄さんのざくろを盗みに来たものですよ」
これを聞いてざくろ兄さんは、しばらくぽカーンとしていたが、そのうちに思い出し、「そ、そうみたいだね。ま、ぼろぼろのところだが中へ入ってくれ」と若者を小屋に入れた。
「兄さん、あのときがありがとう」
「いやいや、去年は日照りがひどかったので、みんながひどい目にあったからな。それでいまは何をしてるんだ?」
これを聞いて若者は、恩人であるざくろ兄さんに、自分は修行を重ねたキツネで古里といい、去年のあの日は食べるものがなくなったので、何か食べようと思ってさがしたところ、ざくろ兄さんのざくろが見事になっているのを見て、ざくろでもいいやと盗もうとしたところをみつかり、腹が減ってめまいがしていたものだから、逃げる力もなくなり捕まってしまったことを話した。
これにざくろ兄さんがはじめは驚いたが、そのうちになんとも思わなくなり、その上、親しみをも感じ始めたので、一緒に住もうと話が決まった。もちろん、気の優しいざくろ兄さんと一緒に暮らせるとあって古里は大喜び。そしてその夜、古里が聞いた。
「兄さん、どうしてお嫁さんをもらわないのだい?」
「え?なにをいう。こんな貧乏な野郎の元に来る娘なんかいないよ」
「なにいってんだい。男前で気が優しく、また勇気のある兄さんにはきっといいお嫁さんがくるから」
「じょうだんはよせ」
「よし、私が何とかしよう」
「え?古里が」
「うん、任しておきな」
ということになり、その日は寝た。実は古里は自分を逃がしてくれ、ざくろまでくれたざくろ兄さんに感動し、兄さんに必ず豊かな暮らしを送ってもらおうとやってきたのだ。
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