蘇童は中国における現代先鋒文学の代表的作家です。1963年、江蘇省蘇州市生まれ。1980年北京師範大学中文系に入学。卒業後、南京芸術学院や『鍾山』雑誌社に勤めました。現在は中国作家協会江蘇分会所属の専業作家です。主要作品は「妻妾成群」、「罌粟之家」、「紅粉」などです。1983年に小説を発表しはじめ、現在までの作品は110万字に及んでいます。彼の小説は、濃厚な江南の風情と唯美的文体で、中国の現代文壇に独自の旗をたてたことでその名が知られます。中国の著名な映画監督、張藝謀(チャン・イーモウ)が蘇童の「妻妾成群」を元にして撮影した映画「大紅灯篭高高挂」(邦訳:紅夢)がアカデミー賞にノミネートされたことで、蘇童は内外のメディアの注目の的となりました。
次は彼の作品「離婚指南」の内容を簡単に紹介しましょう。この小説は1991年に中国の雑誌『収穫』第5期に掲載されました。
これは「不倫」と「離婚」をめぐり5人の男女がおりなすトレンディ小説です。激変する時代に逆らい、哲学書に人生の救いを求めるインテリ、ヤンポー。その不倫相手で若さと美貌を持つ魔性の女、ユィチォン。生活に疲れたヤンポーの妻、チューユン。改革開放のバブル成金、ダートウ。元哲学教師、現在は西瓜を切り売りしながら、自分の体験に基づく結婚解消ハンドブック『離婚指南』を執筆中のラオチン。この5人の男女がおりなす離婚騒動の顛末を描いています。
蘇童の小説で書かれた主人公は、一人一人、心の中に闇を抱えています。その闇は、もとより、中国という国のありように根ざしたものには違いありませんが、蘇童は、はっきりと、個としての人間の精神の奥に住む闇に焦点を当てていると思われます。台詞と地の文が区別なく、ずらずらと続く不思議なリズムを持つ文体、日常用語で普通に綴る文のなかに、随所に象徴的表現が現れる、微妙なきしみの感覚。乾いた詩のような文章が構築する蘇童の世界は、恐怖と魅力に満ちています。
|