今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
今日のこの時間は、少数民族チベット族につたわる「仲良し」というお話をご紹介いたしましょう。
「仲良し」
むかし、むかし、ロージとゾーハンという二人の男がいた。二人は幼いときから一緒に山に柴刈りにいったり、町にそれを売りに行ったりし、いつでも何かあると助け合い、真の兄弟より仲がよかった。
と、ある日、いつものように二人は朝早くから山で柴を集めていたが、ゾーバンが樹の根っこの下に穴があるのをみて、中に袋が隠してあるのを見つけた。これを横で見ていたロージがなんだろうと開けてみると、なんと幾つもの金粒が入っていた。
「うわ!これはいい。ゾーバン、二人で仲良く分けよう」
ロージがこういうとゾーバンがどうしたことか、それにすぐには答えず、その金の入っていた袋をじっと見てからいう。
「ロージ、おかしいと思わないかい?どうしてこんなところに金が隠してあるんだい?もしかしたら神さまがここに隠しておいたのか、または魔物がここにわざと入れておいたのか、どうもわからないな」
「え?どういうことだい?う~ん?じゃあどうする?」
そこでゾーバンは、あたりをみまわし、二人以外に誰もこれを見ていないのを確かめた。
「こうしよう。俺がこれを持ち帰り、家に何日か隠しておいて誰も探しに来なかったら二人で分けよう」
「それもそうだな。じゃあそうしよう」
「うん、それに家には裸麦で作ったお酒があるから、明後日来てくれ、二人で分けるときに一緒に飲もう」
「それはいいや」
ということになり、二人はそれぞれの家に帰っていった。
そしてゾーバンはその袋を木の箱に入れたあと、飯も食べずに考え始めた。
実は、ゾーバンはこの金を独り占めにしたかったのだ。町にはいろいろ自分が欲しいものがあるし、また金持ちの暮らしぶりなどを目のあたりにし、ゾーバンはそれがうらやましがった。いまの貧しい暮らしからいち早く抜け出したいとこのごろ強く思うようになった。そして今朝、山で金を見つけたときに、急にその考えが強くなったのだ。金は自分が見つけたものだから、もしそのときロージが側にいなかったら、この袋の金は全部自分のものだったのに、と後悔していた。
こうしてゾーバンは翌日、袋から金を取り出してあるところに隠し、いくつかの腐りかけた棒切れを袋に入れておいた。
さて、その次の日の夕方、約束どおりリロージがやってきた。
「ゾーバン、いるかい?」
これを聞いてゾーバンは急に曇った顔をした。
「ロージ、来たかい」
「ああ。あれ?そんな暗い顔していったいどうしたんだい?」
「ロージ、驚くなよ」
「なんだい?どうしたんだよ?」
「実は、あの袋に入っていた金、今朝見たら棒切れに変っていたよ」
「なんだって?」
そこでゾーバンは、木の箱を開けて袋を取り出し、中のものを机の上にこぼした。これを見てロージが呆然となった。そこでぞーダン、
「あのときいっただろう。あんなところに金が隠してあるのは、神さまが隠したのか、または魔物がわざと入れておいたんだろうって。案の定、僕たちは魔物に騙されたんだよ」
これを聞いたロージ、「おかしいな。あんなピカピカ光る金が三日目には腐った棒切れに変るとは。これはなにかあるぞ?」とゾーバンに言おうとしたが、急に考え直し「そうだったのか。仕方がないよ。俺たちには運は回ってこないんだね。諦めるしかないか」と答えた。
これを聞いてゾーバンは安心し「じゃあ、気晴らしに裸麦の酒でも飲むか」という。こうして二人ともわざと楽しい顔をして酒をのんだ。そしてロージは家に帰ったが、今日の酒は苦いばっかり。ゾーバンの前ではかなり酔ったふりをしたが、実はあまり酔ってはいない。それにすぐにはねられない。ロージは横になりながら考えた。
「そんなことがあるはずがない。それにゾーバンはどうして僕にうそをつくのだろう。俺とは幼友達だというのに。そうか。ゾーバンはいまの貧しい暮らしがいやになって、いち早くいい暮らしがしたいのだろう。俺も金はほしいけど、友達をだますことはしないよ。でも、奴とはこれまで助け合ってきたからなあ。悪い奴じゃないことは確かだ。よし、なんとかしてゾーバンの目を覚ましてやろう」
ここまで考えたロージンは、ことは決まったとそのうちに寝てしまった。
次の日の朝。ロージは森に入って何と二匹の猿を捕らえてきた。そして猿にゾーバンの二人の息子と同じドーワとドーチョンという名をつけてゾーバンに黙って飼いはじめた。その後、暇があると猿にとんぼ返りなどの芸を教え、かなり出来たころに谷間に住んでいる親戚の家に預けた。
さて、それから数日たったある日、ロージは、金をはたいて町からたくさんの食べ物を買い、自分もうまい酒を作ったのでゾーバンに飲みに来るよう誘った。そして二人が飲んでいるとき、ロージが不意にいう。
「ゾーバンよ。うちには沢山の食べ物があるようになってね。雌牛は子牛を産むし、それに見てみな、おいしいお菓子もある」
「おお。ほんとだね」
「で、どうだい?今度、君の二人の息子を呼んできたらどうだい?こんなにあるんだ、うちじゃあ食い終わらないからさ。」
「そうか?じゃあ、そうさせてもらおうか」とゾーダンはいいながら、自分があの金のことでロージを騙したのに、ロージは今になっても何にも気付いていないことに安堵した。
こうして数日後に、ゾーダンの二人の息子がロージの家に遊びに行くことになり、その日はロージがわざわざゾーダンの家に迎えにきた。そして二日後にゾーダンが息子を連れ帰るため、ロージの家に行くということになった。
で、その日、ロージはゾーダンの二人の子供を連れて自分の家には帰らず、なんと二人の子供を谷間にあるかの親戚の家につれていき、三日間預かってもらい、その代わりにその家に預けていたかの二匹の猿を連れ自分の家に戻ってきた。
こうして三日後、ゾーダンが約束どおり、ロージの家へ自分の息子を迎えに来た。そして家に入ると、ロージが暗い顔をしている。それに自分の二人の息子の姿がない。
「うん?ロージ。どうしたんだい?そんな顔して?それに俺の息子はどこへ行ったんだい?あれ?ロージは猿を飼っているのか?」
これにロージはすまなそうな顔をしていう。
「ゾーダン、実はな。実は・・」
|