では、ここで、茅台酒にまつわる昔話をひとつご紹介しましょう。題して「雪夜のできごと」
いつのことかわからんが、それはある年の大晦日。貴州の茅台村は朝から骨をさすような寒い風交じりの大雪だった。李守という若者がいて村はずれの粗末な家に一人すんどった。と、夕食を終えて近くの井戸で水汲もうと桶を天秤棒の両側にかけ、それを担ぎ家を出ようとした李守は、なんとみずぼらしいなりをした老婆が倒れているのを見て気の毒に思い、早速、老婆を背負って家の中に運び、床に寝かせた。
「こんな寒い夜にどうしたんだ?かわいそうに」と李守は、火をおこして部屋を暖かくし、自製の米の酒を温め、老婆に飲ました。
「おばあさん。さあ、体が温まりますと。これはおいしくはありませんが、寒いときには一番ですよ。すぐ何か作ってあげますから、この酒を呑んでまっていてください。さあ、お飲みなさいよ」と勧める。
気がついた老婆は、李守を見つめ、にこっと笑って、その酒をおいしそうに飲み始めた。そして李守が熱々のおかゆを作って持っていくと、老婆はいつの間にか寝ていた。そこで布団をかけてやり自分は囲炉裏のそばでうとうととしていた。すると夢を見て、美しい琴の音と共に一人の天女が舞い降りてきて李守の前に立ち、手にはぴかぴか光る杯をもって、杯から酒を地面にばら撒いた。するとあたり一面に芳醇な香りがして、目の前に輝く銀の河が現れた。びっくりした李守が天女を見ると、天女は微笑を残して、また空に舞い上がっていった。そこで夢から覚めた。
「うん?何だ、夢だったのか!さてと、あのおばあさんは」と床のほうをみると、床は空っぽで、布団もちゃんとたたんであり、そこで誰かが横になっていた気配はない。
「ありゃ?どうしたんだ?おばあさん!おばあさん!どこへ行ったのですか?外は寒いですよ。」と戸を開けてみると、外は風も雪もやんでいた。そしてなんときれいなきらきら光る水を湛えた小川がいつのまにか家の前に流れているではないか。そして小川からは、とてもよいお酒の香りが漂っていた。これには李守びっくりしたが、「はては、あのおばあさんは天女だったのか!この私に福をもたらしてくれたんだ」と気づき、その日から小川の水を使って酒造りをはじめ、その酒は口当たりがよく、とても芳醇なのですぐさま売り切れ、李守は徐々に豊かになっていったという。そして李守はあの天女に感謝するため、夢で見た天女の姿を思い出し、酒瓶にあの天女の絵を張ったのさ。
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