今晩は、ご機嫌いかがでしょうか?林涛です。
さて、今日のこの時間は、清の時代の工部尚書、つまり、都の建設をつかさどる部門の長官であった劉南垣にまつわるお話です。題して「恩師の献立」
「恩師の献立」
嘉靖年間に工部尚書を務めた劉南垣は、業績をあげ、官吏としての評判もよかった。のちに劉南垣は職を退き、ふるさとの南京の田舎に戻り、地方の官吏や豪族などとはほとんど付き合わず、贅沢を一切しない日々を送っていた。
と、ある日、地元の県令が不意に屋敷に訪ねてきたので、なにごとかと応接間で林というこの県令を迎えた。そして互いに挨拶をかわし、劉南垣が聞く。
「県令どのが急にこられたからには、きっとこの老いぼれに大事な用があるはず。さ、ご遠慮なく申してくだされ」
この元は都の大官であった劉南垣が、親切に聞くので県令は、もじもじしながらも言い出した。
「大胆にも劉さまの静かなお宅を騒がせに来まして、おゆるしくださりませ。実は劉さまに、献立をもらいに来ました」
「献立?」
「はい。献立でござる。私めは、献立をもらいに来ました」
これをきいた劉南垣は、急に笑い出した。
「はははは!何を言われる。これは面白い。この老いぼれは厨房人でもなく、屋敷では毎日、普通の野菜をたべ、時には魚も少し口にするぐらい。粗末なものでござるよ。それをどうしてこの老いぼれに献立を求めに来られたのかな?冗談でござろう」
これに県令は黙ってしまった。そこで劉南垣は、県令が、わざわざ訪ねてきて、ほかのことは言わずに献立をくれと言い出すのは、何かかなりのわけがあるに違いないと考え、まじめな顔をして聞く。
「県令どの。一体どうなされたのでござるか?訳を話されや」
そこで県令は、恐縮しながらいう。
「私めの言うことに怒らないで下さりませ」
「わしは怒ったりはいたさんので遠慮なく申されや」
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