「はい。では遠慮なくいただきます。先生、ご馳走はいりませんぞ」
「そうでござるか、ははは!ここは貧しいところゆえ、何もないが我慢しなされ」
「とんでもござりませぬ」
こうして劉南垣は、下のものに昼餉の支度を命じたあと、李コウと昔の話などを始めた。そして一刻ほど過ぎたが、昼餉はまだ運ばれてこない。実は李コウ、この日の朝餉はあまりよくなかったのでいい加減に食べただけであるから、腹の虫がおさまらない。しかし、恩師に昼餉はまだですかとは聞けないので話しながら腹をさすっていた。
こちら劉南垣、これを見てにゃっと笑ったが、すぐにまじめな顔をして「うん?わしの愛弟子が来たというのに、まだ飯をださんとはけしからん!何をしておる!早くせんか!」と奥に怒鳴る。
が、それからしばらくしても食事は運ばれてこない。李コウは空腹でいらいらしてきたが、恩師の前なのでどうにもならん。これをみて劉南垣は、心では「李コウや、県令が来るまで我慢せいや」と思い、うわべはすまない顔して言う。
「これはこれはすまんのう!うちのものは今日はどうかしておる。皇帝さまの見回り役が来たというのに、なんということだ!こら!早くせんか!」とまた叫んだ。
このとき、屋敷の執事らしいものが出てきた。
「旦那さま!申し訳ありません。お客さまが来られるとは思っていなかったので、遅れました」
「ばかもん!ご馳走はいらんといったじゃろ!早くもってくるのじゃ」
「はい!分かりました。旦那さま」
と執事が恐る恐る下がっていこうとすると、下のものがやってきて、いま、県令がたずねに来たと告げた。
これに劉南垣は顔をいくらかしかめたあと、応接間にお通ししろと命じてから、李コウにいう。
「そこもとがここにおると聞いたのじゃろう。挨拶にきたにちがいない。さ、まいろう」と李コウと共に応接間に向かった。
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