しかし、金持ちの家に生まれたことから、衣食のほうでは凝ってしまい、何かあると贅沢をしたがり、特に食い物にはうるさかった。そこで劉南垣は暫く考えた末、言い出した。
「わかりました。県令どの、心配なさるな。李コウが着た時の食事は、この老いぼれが引き受けましょう」
「いえいえ、とんでもない。それは県令のわたしめがやること。李コウさまが来られるのもお役目でござるから、この県令が接待するのは当然でござる。あなたさまに任せるなどとは・・。ですから献立を書いてくださいませ」
これを聞いた劉南垣がいう。
「そうですな。ではこういたそう。李コウがついたら先にわしの元へ機嫌伺に参るでしょう。そこで県令どのは昼餉を取らず、遅くなってここに来てくだされ。そのときにわしから献立をお渡ししよう。県令どの。安心してお戻りくだされ。もし李コウが献立に不満であれば、このわしが引き受けるゆえ」
県令はこの約束を聞いて、不安ながらも帰って行った。
さて、その翌日、李コウは地元に到着した。李コウは自分の恩師が地元に住んでいるのを知っているので、迎えに来た県令とは会わず、供だけを連れて郊外に住む恩師を尋ねに来た。
「先生。お久しぶりでございます。お元気な姿を拝見し、弟子としてうれしゅうございます」
「おお。これはこれは李コウではないか。このたびは皇帝さまの使いで各地を回っておられるとのこと。お忙しいところをこの老いぼれを訪ねてくるとはご苦労でござるな」
「いえいえ。とんでもございません。先生の教えがなけれは、李コウの今日はござりません」
「なになに。すべてそこもとの努力ですぞ」
こういって劉南垣は出世した愛弟子を改めて見てからいう。
「そこもともここに着いあと、すぐこのおいぼれを訪ねにこられたのであろう。さぞや空腹であられようよ。いますぐ昼餉を出させまするゆえ。県令が設ける宴は明日にいたされ。師弟の間柄ゆえかまわんでしょうな」
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