「では申し上げます。あなたさまは、李コウさまの師匠でございますな」
「李灝(コウ)?おお、あの皇帝さまの命で各地を見回りしておる李コウのことか?」
「はい。その李コウさまでございます」
「わしの弟子であった李コウがどうした?」
「その李コウさまがまもなくここに見回りに参られまする」
「そうでありましたか!李コウとは何年も会っておりませんが」
「そこでお願いがございます」
「どういうことですかな?わしは、すでに職を退き隠居しておりますが」
「わたしめは、あなたさまを通じて李コウさまの機嫌をとるのではございませぬ」
「というと?」
「李コウさまは飲食の上ではかなり細かいところがあるときいており、これまで回られたところでは、お口に合わないものを出したのできつく叱りを受けたそうでござります。ですから、ここに来られ食事されたさい、私めに不届きがありましたら、きっと強いお叱りを受けるにちがいありません。しかし、地元は、今年は日照りがひどく、作物の出来がわるいので民百姓どころが、役所も困っている次第。」
ここまで聞いた劉南垣は、確かにその通りだと思い、自分ですらも往年よりは粗末に暮らしていることを思い出した。
「そうであったな。ま、わしは普段から粗食しておるので大して困ってはおらんが」
「県令としてあなたさまには何も出来ずお許しくださいませ」
「いや、いや。わしは気にしとらん。おかまいなく」
「ありがとうございます」
「で、今の話しじゃが・・」
「はい。ですから、李コウさまの膳に何を出せばよいか、あなたさまに献立を書いていただきとうござります」
これを聞いた劉南垣は、目をつぶってしまった。
県令の言うとおり、自分は李コウの師匠であり、この教え子をよく知っている。李コウは幼いときから賢く、二十歳前に科挙に受かり、仕事では群を抜き、かなりの才能を見せたことから、時の皇帝に認められ、のちは皇帝の見回り役というかなり高い役についていた。
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