このとき、「なにか、おめぐみを!腹をすかしておりますで潤オ!」という声がして外に二人の物乞いが来た。男の物乞いはびっこひき、女の物乞いは目が見えなかった。心優しい娘の三花は、父が食べないという鯉の料理などをこの二人の物乞いに出した。
ところが男の物乞いは、料理の匂いをかいだあと、女の物乞いに、「美味そうな料理だから、酒がほしいな」と言い出す。そこで三花は、近くの酒甕から酒をお椀に汲んで差し出したが、二人はその酒を一口飲み、「これでも酒か?」と言い出した。
これを聞いた老いた職人、かっとなって床から起き出し、病をおして門のところまで来て震える声で言う。
「木には皮があり、人には面子というものがある。お二人さんよ。お前さんたちはわしの面子を潰すのか!!」
これを聞いた目の見えない女の物乞い、「面子なら返してあげるよ!」といって酒の入った御わんを部屋のなかにぶちまけ、二人の物乞いはさっさとどこかへ行ってしまったワイ。
さて、ぶちまけた酒はなんと三花が篩(ふるい)に入れて干しておいたせっかくの酒の麹にかかり、びしょびしょになったしまったので、三花は仕方なく、麹を釜の近くで乾かした。
と、次の日、濡れたかの麹で酒を作ると、その香りはとてもよく、匂いはあたりに漂い、これをかいだ老いた職人はすがすがしい気持になったので、これはと思って一杯飲んでみるととても美味い。
「うまいのう!どうしたことだ?しかし味が少し薄いか!」と思っていると、外でかの二人の物乞いの「いい香りじゃ!」、「おいしそうな酒ね」声がした。これを聞いた老いた職人、早速表へ出て、「さあ、さあ、中へどうぞ」と家の中へ招いた。やがてこの酒をのんだ物乞いたちがいう
「美味いが、少し薄い」
「そりゃあそうでしょう。酒壷山の酒にはおよびませんよ」
「はははは!職人さんよ。どうかな?三回蒸してみては?味は必ずこくなるわい」とびっこをひく物乞いが言い残し、二人はまたどこかへ行ってしまったわい。
これを聞き、ハッと何かに気がついた老いた職人、早速、酒甕の酒をまたも二回蒸したところ、今度は、香りがいいばかりか、濃いすばらしい味のする酒ができあがった。そして老いた職人が酒が入った瓶を振ってみると、多くの小さな真珠みたいな泡が出てきてなかなか消えなかったので、このときから酒を振って度数をはかることにした。え?
こうして桂林の酒職人はこの酒に三花酒という名をつけたが、この名はかのきれいな娘の三花が父と一緒に作ったからだという人もいるそうな!
で、かの物乞いだが、いずれも八仙人の一人で、びっこをひいたのは鉄拐李、目が見えないように装ったのは何仙姑だってさ!
え?あの欲張りな役人?しりませんよ、あんな奴のことは!!
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