次は「逸史」という本から「針灸」
「針灸」
唐の時代に一人のたいした役人が落馬して足を痛めた。これは大変だとその妻がさっそく侍医を呼んで手当てさせた。この侍医は針灸を心得ているらしく、さっそくツボを見つけて役人の足に針を刺した。ところが役人はびくっと震えたあと口から泡を吹き、痛い痛いとうったえ、夜になって気を失ったので、屋敷の者は慌てた。それにかの侍医はどうにもならず、ただおろおろしているだけ。
ちょうどこのとき、この屋敷には役人の妻の遠い親戚だという一人の道士が来ていた。この道士はこのことを耳にすると「わたしが見てみましょう」といって役人の寝ている部屋に来た。
部屋にいた侍医はこれを見て仕方なさそうな顔をした。この道士はそんなことにはかまわず、病人のそばに来て侍医が針を刺したツボの周りを見ていたが、不意に顔をしかめて侍医にいう。
「あんたは、ことを簡単に思っていましたな!ツボを間違えれば人は死ぬのですぞ!人の血脈は多くの川のように互いに通じてましてな。針を刺すときはしっかりツボを見届けなきゃいかん。少しでもそれると大変なことになる」
道士はこういうと、数本の針が仕舞ってある侍医の袋から一本の長い針を取り出し、強い酒でその先を洗う。
「わたしがやるからみていなさい。このツボに刺せば、あんたが刺した針はとび抜けるはずじゃ」
こういうと道士は、侍医が刺した針のすく近くに針をプスッと刺した。すると病人はぶるっと振るえ、今度は侍医が刺した針がどうしたことかピュッと抜けて天井まで飛んでいった。こうして周りの人が固唾を飲んで見つめていると、役人は気が付き、なんと落馬したことも忘れたたかように一人で床を下りて腹が減ったという。
これには家のものは大喜び。役人の妻がこの遠い親戚にあたる道士に礼金をと使用人にお盆いっぱいの金銀を持ってこさせたが、この道士は熱いお茶をうまそうに飲んだ後、礼金はそのままのして屋敷を去り、どこかへいってしまったそうな。
はい、今日はこれまで。
そろそろ時間のようです。ではまた来週お会いいたしましょう。
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