3月初め頃、中国の北方はまだ寒気が治まらないところですが、南の都市、広州では、すでに暖かくなりはじめていました。この間、アーチェリー、野球、ソフトボール、ホッケーなどの各代表チームは、この温かい広州でトレーニングを続けています。北京放送の記者はそこで、現在男子ホッケー代表チームを指導している韓国人コーチ、金相烈(キム・サンリュー)氏を取材しました。
今年53歳の金相烈コーチは輝かしいプロフィールを持っています。彼は韓国の男子ホッケー代表チームを率いて、1996年アトランタ大会で第5位、1998年バンコクアジア大会では金メダル、そして2000年シドニーオリンピックで銀メダルをとるなど、韓国ホッケーを世界でも有数のチームに育て上げました。そしてこの実績が評価され、2004年12月に中国の男子ホッケー代表のチーフコーチに招かれ、中国での生活を始められました。その金相烈コーチに、ホッケーへの思いを伺いました。
「私が生きていくうえで、ホッケーはなくてはならないものなんです。そして、私自身は、ホッケーがあるからこそ、人々から、評価していただけるのです。ホッケーのためにささげた時間は非常に意義があるものです。そして、これからの人生もホッケーと一緒に過ごしていきたいと思っています。私の最大の願いはホッケーと生涯一緒にいることで、死ぬ時にホッケーと一緒にいられれば、死んでも悔いが残らないのだろうって、教え子たちにいつもいってるんです。」
まさにその言葉通りに、金相烈コーチはこれまでずっとホッケーと一緒に過ごしてきました。13歳の時にホッケーとであった彼は、選手としては、大きな実績を残せませんでしたが、コーチになった後、ホッケーの強豪・インドに行き、一年間勉強するなど、熱心に指導法を研究してきました。現在、金コーチはホッケーのもっとも評価の高い指導者のひとりとなっています。
金コーチの指導の下で、韓国ホッケー代表は世界有数の強豪チームに成長していました。そして、金コーチは、韓国では知らない人がいない国民の英雄となっています。さあ、そんな国民の英雄、金コーチが中国にやってきた・・というわけです。その理由について、金コーチに伺いました。
「私の人生哲学は、知識は共有するもので、一緒に分かち合うべきだというものです。韓国では教えられるだけのものをすべて教えました。韓国もそうですし、強豪国が多いヨーロッパなどは、すでにホッケーに関するノウハウや、理念、戦術が一定のレベルまで達してしまっています。これに対し、まだまだ基盤が薄いけれど、豊かな可能性を感じる中国は魅力的です。中国に来て、中国を強くしてこそ、自分の指導者としての本当の価値を示すことが出来ると思います。だから、北京オリンピックの前である今だからこそ、中国ホッケーのレベル向上に少しでも貢献すべき時期になったと思ったのです。ホッケーを世界的な大きなスポーツ種目に発展させていくために、私は中国にやってきたのです。」
しかし、ホッケーは中国でまだまだ普及していないこともあって、ホッケー選手になろうとする若い人はそんなに多くいないのも事実です。中国に来てから、この点について、いろいろと苦労もあったようです。
「中国に来て最も大変だったことは、ホッケーのチームが少なく、選手を選抜するのが難しかったことです。当時、全国で100人ぐらいしか選手がいなかったのです。100人から10人を選んで国際大会に出場させる・・なんて聞いたことがありません。ですが、それをやらねばならなかったのです。今後、オリンピックを通して、より多くの中国人にホッケーを好きになってもらえること・・それが私の最も大きな目標です。」
このような金コーチの指導の下で、これまで世界的に知られていなかった中国ホッケー代表は、去年、ドーハで行われたアジア大会で、史上最高の2位をマークしました。決勝では、惜しくも韓国に敗れたものの、金コーチは、中国の教え子たちの戦いぶりに満足したようでした。
「このチームがとりあえず、アジアの舞台でここまでやれたことは評価できると思います。現在、中国は韓国と、まだ大きな差がありますが、これから努力を重ねれば、必ず追い越すことができると信じています。このチームは非常に可能性を感じさせる選手が多いと思います。将来は十分に期待できます。」
金コーチはいつも「試合に臨む時、けんかをしているときのように、相手を恐れず立ち向かうことが一番大事だ」と語っています。困難があってもそれに怯えず、克服する、これは金コーチの精神と言ってもよいのでしょう。2008年北京オリンピックについて、中国ホッケー協会はトップ8進出という目標を立てています。現在の中国ホッケーとしては、やや厳しいとも思える目標ですが、金コーチは違う意見を述べました。
「目標は必ず高くなくてはならない。去年のドーハアジア大会でも最初の目標はベスト8進出でした。でも、結果は準優勝までいったのです。目標を高くもってこそ、飛躍が期待できるのです。」
金コーチは休日もあまり休まず、戦術を研究したり、トレーニング計画を調整したり、トレーニング器具を自分で設計したりしています。ただ、選手たちに対しては、あまり過度の練習をさせません。なぜかと聞いたら、「試合の結果は休憩の質と比例を成すから。休みを十分取れないと試合でよい成績を上げられない」とおっしゃいました。
熱血コーチでありながら、非常に科学的である・・というわけです。外国人コーチの招聘ということでいえば、日本のシンクロの母とも呼ばれる井村雅代さんも、中国に来て、今年から指導を始めています。まずスポーツが好きなら、どの国であろうと、そこに求められる場がある限り、飛んでいく・・そして、スポーツの本当の発展を願うからこそ、あるときは祖国と戦わねばならないにもかかわらず、国境を越えて、指導者として赴く・・ある意味、指導者冥利につきるというところもでしょうね・・中国ホッケーも非常に楽しみになってくるのです。(文章:王丹丹 03/12)
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