積極的に交渉しなければ 対中ビジネスはうまくできない!!
急伸する中国、それにともない日中間でもさまざまなトラブルが生じている。こうしたトラブルに対応しているのが、日本で活躍する中国律師(弁護士)たちだ。というわけで、今号は日本のTMI総合法律事務所に勤務している何連明氏に日中間のギャップと中国に進出する際の注意点を話してもらった。
何 連明(か・れんめい) 中国北京市出身。1988年7月中国政法大学経済法学部国際経済法学科卒業後、89年4月中国律師(弁護士)資格を取得、北京市司法局にて律師登録。95年来日し、上智大学大学院を経て、97年中央大学法学研究科にて国際企業関係法を専攻、法学修士号を取得。99年4月よりTMI総合法律事務所に勤務。同年12月外国法事務弁護士として第二東京弁護士会に登録。現在、TMI総合法律事務所にて、中国進出の日本企業に対する法的アドバイス、中国企業に対するリーガル・サービス、各種契約書の作成、中国国内の法的手続きに携わる。中国法に関するセミナーを多数行っており、専修大学法科大学院客員教授も務める。主な著書に「中国労働六法」「中国における著作権侵害対策ハンドブック」など
取材は、張国清北京放送中国国際放送東京支局長である。この記事は、東方通信社の週間雑誌「コロンブス」2月号に掲載されている。
張国清:何さんは現在、日本で中国弁護士として活躍していますが、もともとは保険会社に勤務していたそうですね。
何連明:当時、私は中国で唯一の保険会社であった中国人民保険公司に勤務しており、縁あって同社の東京駐在事務所で働くことになり来日しました。当時、その事務所にいたのは2名で、日本の保険業界との情報交換や交流などを行っていました。その頃の中国は、社会保険制度や生命保険といったシステムが整備されていない状態だったので、日本で保険の仕組みなどを勉強させてもらっていたのです。と同時に、中国からどうやって日本の保険市場に参入できるかということを模索していました。そこで、来日して1年後に、日本に100?子会社(華保)をつくって、私はそこの取締役に就任することになったのです。その会社では在日中国企業や在日中国人を対象に、損害保険サービスを提供しました。当時日本で生活したおかげで、イロイロなことを学ぶことができました。また、仕事の合間を縫って、損害保険代理店資格や簿記の資格を取得することができました。
張:何さんは、保険会社で働く前から弁護士の資格を取得していたのですか。
何:そうなんです。私は88年に中国政法大学を卒業し、その翌年に中国律師(弁護士)の資格を取得しました。ちなみに、当時の中国では法律の整備が進んでおらず、弁護士は社会的な地位が低い状態にあり、弁護士本来の役割がはたされていませんでした。全国弁護士統一試験ができたのは86年のことです。そのときはまだ裁判官や検察官には資格がいらなかったのです。では、どのような人が裁判官などをしていたかというと、共産党や解放軍の幹部クラスの人たちが担当していました。彼らは法律についてはまったくの素人だったので、弁護士の話とかみ合わないことがしばしばありました。その後、急速に行われた法整備にともなって、02年に司法試験がはじまりました。これは日本の司法システムを模範にして導入したものです。
張:いつ頃から弁護士の仕事をしたいと思ったのですか。
何:学生時代から弁護士として働きたいと考えていました。が、実際に働きはじめたのは、中国弁護士制度の改革にともない、90年代に法律事務所の経営に民営化が導入されてからです。
張:その後、ふたたび来日したのですね。
何:保険会社に勤務していた頃は、ほとんど自由に活動できなかったので、もう一度日本をシッカリと見たいと思うようになったのです。そこで、国際的に活躍できる弁護士を目指して、思い切って日本に留学することにしたのです。そして、上智大学に1年間、中央大学に2年間通って、日本の法律を学びました。ちなみに、中央大学は私が卒業した中国政法大学と友好関係にありました。そういった縁もあって、中国政法大学の学長が中央大学に来た際には、私が通訳を務めさせていただきました。私にとってはとてもいい思い出になっています。
張:卒業後は日本のTMI総合法律事務所で働きはじめていますね。
何:中央大学の理事長に推薦していただき、TMI総合法律事務所に入所することになりました。日本の大手法律事務所ですが、ちょうど中国法に強い人材を探していたこともあって、私に声がかかったのです。それから、私は事務所で中国進出の日系企業に対する法的アドバイス、中国企業に対するリーガル・サービス、中国国内の法的手続きに携わるようになりました。中国の急激な経済成長とともに、仕事は驚異的に増えていきました。おかげで、私の仕事も評価され、現在、中国部門の責任者を務めさせてもらっています。 事務所が抱える中国関係の案件は、すべて私のところにきます。ですから、あらゆる分野の案件に携わらなければなりません。普通の弁護士は自分の専門分野を担当すればいいのですが、中国担当となるとそうもいきません。大変だなと思うときもありますが、それ以上にやりがいがあるので、楽しんで仕事をしています。
張:最近はどのような案件が多いのですか。
何:中国企業が日本企業に対して、クレームを寄せてくるケースが増えてきました。中国がWTOに加盟してからは、とくに増えています。たとえば、ある日本企業が中国企業にある電気製品を納品したところ、半分以上がまともに動かなかったというクレームがあり、その日本企業から交渉の依頼を受けました。何とか賠償しない方向で決着できたのですが、後で中国側から「売国奴」といわれたときは悲しかったですね。また、日本企業が中国企業を買収するという案件も非常に増えています。その際は、どのような法的リスクがあるかといったアドバイスをしています。
張:これから中国に進出する日本企業は、どのような点に注意すべきでしょうか。
何:今年から中国では労働契約法が施行されていますが、これには注意が必要です。この法律は労働者の権益を全面的に保護し、労働組合の地位を高くするというものです。これから中国に進出する企業は、人事労務管理に関して、より慎重になる必要があると思います。
張:中国ビジネスを成功させるコツは、どういったところにありますか。
何:どういうわけか、日本企業は中国企業に対して弱腰になりがちです。それに、中国で交渉する際に、結論を日本に持ち帰るケースが非常に増えています。それでは変化のはげしい中国ビジネスのなかで生き残ることはできません。もっと積極的に、そして迅速に仕事を進めていくことが大切だと思います。
張:何さんは日本の法曹界について、どのような印象をお持ちですか。
何:やや保守的かなと思います。とりわけ、外国人弁護士の活動に対して消極的な向きがあります。日本企業は、これからもっとグローバル化を進めなければなりません。そのためにも、外国人弁護士の活動の幅を広げるべきだと思います。
張:たしかに何さんのような人が、日本で活躍してくれれば、日本のグローバル化はドンドン進むでしょうね。これからも日中両国のために頑張ってください。
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