元歯科医の版画家が 銅版画で日中交流に貢献する!!
日本で活躍中の版画家・庄漫さんはナント中国では歯医者さんだったという。昨年には、その繊細なタッチが評判になって、地下鉄のパスネットカードの挿絵にも採用された。さっそく、異色の経歴を持つ庄さんに版画に対する思いについて聞いてみた。
庄 漫(しょう・まん) 1972年上海生まれ。95年上海第二医科大学口腔医学部卒業。06年文化女子大学造形学部生活造形学科グラフィックプロダクト専攻卒業。主な受賞歴は03年タイ王国国際版画展、04年第24回スペイン国際小品版画展、04年第49回CWAJ現代版画展、05年第4回ブルガリア HLESSEDRA国際版画展、06年インド第7回バラト・バーバン国際版画ビエンナーレ展 、06年韓国第14回ソウル国際版画ビエンナーレ展、07年第75回日本版画協会展など
取材は張国清北京放送東京支局長である。この取材内容は日本東方通信社の週間雑誌「コロンブス」2007年8月号に掲載されている。
上海の歯科医が 東京で版画家に
張国清:庄漫さんは版画家になる前は、歯医者さんだったそうですね。
庄漫:そうなんです。私は上海の生まれで、上海第二医科大学口腔医学部を卒業し、総合病院で歯科医になりました。歯科医になるのは両親の希望だったのです。勤務先では、ある程度、高度な手術も担当していました。もともと文系の勉強は得意ではなく、理系の勉強や細かい作業が得意だったのです。
張:安定した生活を送っていたのに、どうして日本で版画家を目指すことにしたのですか。 庄:たしかに歯科医は安定した職業です。しかし、しばらく働くうちに自分の将来がハッキリと見えてしまったのです。すると、しだいに外国の企業に就職するか、留学したいと思うようになりました。そんな折、友だちから日本に遊びにこないかと誘われたので、27歳のときに来日することにしたのです。
張:安定した生活からはなれることに、不安や後悔はありませんでしたか。
庄:もちろん、仕事を辞めることに抵抗はありましたが、新しい世界に飛び込みたいという思いのほうが強かったのです。それに当時は政府の政策もあって医科大学だからといって、とくに高額な学費がかかるわけではありませんでした。ですから、そんなに損をしたと思うようなこともなかったのです。
張:とはいえ、初めての日本は大変だったでしょう。
庄:本当に苦労しました。言葉もわからなければ、右も左もわからないといった状況でしたからね。日本で過ごした最初の夜は寂しくて仕方がありませんでした。明け方に聞いたカラスの鳴き声を今でもハッキリと覚えています。 日本の版画技術を 中国に伝えたい
張:ところで、版画をはじめたのは、大学に入ってからだそうですね。まだ5年くらいしか経っていないことにビックリしてしまいました。
庄:私は日本語学校を経て、文化女子大学に入学しました。何を学ぶか悩んだ末、もともと手先が器用だったので、美術を選択することにしたのです。とはいえ、これまでに美術を勉強したことはなかったので、ゼロからのチャレンジでした。 それから先生のすすめもあって、2年生になってから銅版画に専念することにしました。振り返ってみると、このときに銅版画を選んでよかったと思います。というのは、現代アートの大半は抽象的なものが多いからです。私はどうも抽象的なイメージを思い浮かべるのが苦手なのです。
張:ところで、庄さんはどのようなタイプの版画をつくっているのですか。
庄:私はメゾチントという手法で版画をつくっています。これは、銅版に細かい点々を穿ち刃物でそれを削り取ることで、白と黒の部分をつくっていくものです。版画のなかでも、白と黒の間の微妙な明暗を表現することができる手法のひとつといわれています。陰影を表現する際には最適な手法といわれており、写真が誕生する前までは、メゾチント版画が西洋の肖像版画の主流だったそうです。
張:庄さんはどのようなイメージの版画をつくりたいと思っているのですか。
庄:やはり、メゾチント版画の表現を生かした仕上がりを目指しています。ですから、レンブラントや長谷川潔など陰影の表現に長けた作家の作品には非常に影響を受けました。
張:花などの静物画と風景画を描いていますが、風景画についてはどこの景色をモチーフにしているのですか。
庄:まだ風景はあまり描いた経験がないのですが、多くはふるさとの中国の景色を描くことが多いです。これからは、日本の風景を描いた版画も制作してみたいと思っています。
張:ひとつの版画の制作にはどれくらいの時間がかかるのですか。
庄:長いときで1~2カ月間かかります。ですから、同時に10?くらいの小さな版画をつくったりしています。 張 作品づくりの際に気を付けていることがあればお聞かせください。
庄:ナントいっても自分の集中力を保つことです。そのためにも、毎日欠かさずに版画に取り組むようにしています。チョットでもサボってしまうと、ついついサボりグセがついてしまいますからね。
張:すでに海外や日本の版画展などで見事に入賞をはたしていますね。そういった実績が評価されて、庄さんの作品は、地下鉄のパスネットカードの挿絵にも採用されたと聞いていますが。
庄:私を応援してくれている人が、東京の地下鉄を運営している東京メトロに推薦してくれたのです。おかげで、たくさんの人に私の版画を見てもらうことができました。発行した数はナント、約20万枚にも上ったそうです。
張:しかし、芸術家という職業は売れっ子になるまで、なかなかきびしい生活を強いられますよね。 庄 もちろんです。しかも、版画はもともと蕫複数芸術?といわれ、大衆芸術です。だから、そもそもそんなに高額で販売するような代物ではありません。それに、まだ自分の作品にそれほどまでの価値はないと思っています。私の作品を買いたいといってくれる人がいることに、今でもビックリしてしまうほどです。 ただ、最近になって私は、芸術ビザを発行してもらうことができました。これはある程度の実績がないと、なかなか取得できないビザですので、非常に光栄なことだと思っています。これを機に、ますます一生懸命、版画に取り組んでいきたいと思っています。そして、いつかは日本の優れた版画技術を中国で教えたいと考えています。
張:それは実にいい考えですね。本日はありがとうございました。
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