「この町で自然に、あるがままに暮らしたい」
中国に赴任したのは06年4月。それまで、出張ベースで行き来はしていたが、2泊以上したことはなかった。
「中国は他の国と比べても、特に外国だと感じる」。空港から市内まで自力で行けないことを体験して、このような感想を抱いている。しかし一方では、中国で暮らすことの「面白さ」を余すところなく披露もしてくれる。「言葉にしても、風俗習慣にしても、異質と思っていたものは、実は繋がっているという発見が多い」。
中国語は一番の挑戦だったようだ。レストランで、注文したメニューと異なるものが出されることもしばしばあったという。早く駐在員生活に慣れようと、朝、出勤前に、週三回、家庭教師に来てもらっている。
「この町で自然に、あるがままに暮らしたい。日本人駐在員の世界にだけいれば、本当の北京を知らないまま帰任することになってしまう。もったいな過ぎる。」
これが赴任する時の心構えだったという。着任後、早々と公共交通機関用のICカードを購入。土日になれば、ラフな格好でバスや地下鉄に乗って、行ったことのない市場や町を見物に出かけるようにしている。最寄のバス停・「日壇路」の発音が苦手で、車掌に分かってもらえず、苦労したこともあったが、今では、巻き舌だって軽々とこなせるようになった。
出かける時は、目的地だけが目的でもないようだ。「ずっとしゃべり続けている車掌」の早口しゃべりを「ヒヤリングの素材」にしたり、「大型バスの女性運転手が多くて、びっくりした」、と人間の観察に余念がない。好奇心衰えず、五感で中国を体験しようと貪欲だ。
「多少、回り道でも自分で出かけないと、ありのままの中国が分からない。ベンツに乗っている人もいれば、地下鉄やバスで毎日通勤している人もいる。両方を見る必要がある。とにかく、自分の足で歩いて、自分の目で見たい」。
仕事柄、様々な中国人と接しているが、中国人の日本を見る眼差しについて、「様々な価値観があり、様々な人間がいることこそが、中国ではないか」、と断言を避け、バランスの取れた回答に終始する。一方、最近、日本を訪れたことのある中国人の青年が増えていることにふれ、「彼らは、実際に見てきた日本は清潔で、安全で、のんびりしている国だったと言う。日本に行っても緊張しないで済むと感想を述べているので、嬉しい」と話す。
「日本も変わっているし、中国も変わっている。お互いにどんどん動いているので、その変わり様を把握していないと。とにかく、肩に力を入れずに、自然体で頑張っていきたいな」。
背広を脱いで、ラフな格好で北京の町を歩き、中国人に道を聞かれたりもしている。「日本人も中国人も顔が同じだからね」、と微笑む。9ヶ月目に入った深田さんの北京駐在生活は、まだ始まったばかりである。(王小燕)
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