●リード
「中国の映画界は日本人にとって、まだ多くのチャンスが眠っていますよ」。中央電視台の脚本や合作映画のプロデュースで活躍する吉田啓氏は自身の経験から強く語った。中国のドラマの脚本を単独で日本人が担当するのはおそらく初めてのケースであろう。中国と日本の往復生活を続ける彼にその経緯をお話し頂いた。
●本文
吉田氏が中国に関わり始めたのは香港映画の配給・製作に携わった1999年から。それまでは日本での映画畑を歩んできた。大学卒業後、パルコに入社し映画事業のレイトショーの企画に携わり、退社後はフランス映画配給の専門会社、シネマ・ドゥ・シネマを設立、クロード・シャブロールやアラン・レネなどの作品を配給した。1997年には豊川悦司主演の『男たちのかいた絵』、本木雅弘主演の『中国の鳥人』を配給、幅広い分野の作品に関わってきた。香港映画の現場に出会った後は中国映画の未来に強い可能性を感じ、シネマ・ドゥ・シネマをドラゴン・フィルムに改名、日本映画の配給・宣伝に携わる傍ら、張芸謀監督の『あの子を探してができるまで』のメイキングムービーの製作や『活きる』の日本での配給などに力を入れた。「中国人たちが吉田啓という変わった人間に興味をもってくれた。中国の映画界は、僕は体験できなかったけど、昔の日本映画の黄金期に似た活気を感じるのが魅力的だ」と吉田氏は言う。連続ドラマ『情似雲煙』は上海人の男性と雲南の少数民族の女性の恋や家族関係をテーマにしたストーリーである。日本人である吉田氏がこのドラマの脚本を担当するきっかけも興味深い。以前、彼が台湾に出張し、著名な台湾人女性プロデューサーとポストプロダクション作業の合間の世間話をしていたとき話題は雲南まで及んだ。村田喜代子の小説『雲南の妻』を愛読し、自身が配給した『中国の鳥人』がきっかけで雲南についての知識が豊富な彼の話が彼女の心の中に残っていたのか、去年、台湾を代表する黄以功監督が日本人の脚本家と組んでドラマ作品をつくりたいという話が持ち上がった際に、その女性プロデューサーは日本人である吉田氏を推薦し、彼が上海人と雲南少数民族を主人公にしたドラマをつくることでトントン拍子に話が進んだのである。日本人の書く脚本は綿密でしっかりしている、という黄以功監督の期待があり、吉田氏の日本の映画業界20年の経験がその期待に応える形となった。その後、氏のもとには中国サイドから次々と脚本のオファーが舞い込んで来ている。
「韓流の次は華流の流れがやってくるはずだ」と吉田氏は言う。「中国にも面白い作品がある。ただ今はそれを伝えるきっかけとなるキーパーソンがいない。中国のペ・ヨンジュンを見つける必要がある」。吉田氏のエネルギーあふれる口調からは中国ドラマの熱さが伝わってくる。日本でもBS日テレやGYAOで中国ドラマの放送が始まり、彼はナビゲーターとしても活躍した。今後も日中の映画業界で幅広く活躍してくれるにちがいない。(雑誌「中国語世界」掲載分を一部、変更。文責:日中メディア研究会/森岡 正樹)
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