ありのままの中国に触れたい ドキュメンタリーを自力制作中
折りたたみ式の三脚、すぐに取り出せる手のひらサイズのビデオカメラとDVテープ十数本、これがすべての機材である。溢れんばかりのチャレンジャー精神で、秋の北京に降り立った。初めての中国である。言葉が通じない。映画製作も初体験である。この企画に取り組む前までは、隣国とは言え、中国に特別な興味関心もなく、余暇があれば、店頭販売のバイトに励み、稼いだ小遣いで東南アジアなどを遍歴していた。
しかし、昨春、突如日本メディアを賑わせた「反日デモ」報道に、中国に関心の目を投じざるを得なかったという。報道では、「反日愛国教育のつけが回ってきた」という論点が目立っていた。
「本当にそうなのか」、
「中国人はデモを通して、何を求めているのか」、
「自分の目で見、自分の頭で分析したい。せっかくなので、自分の調査過程を映像に収めて、同世代の大学生にも見せたい」。
こうして、入手した奨学金の使い道が決まった。しかし、回りから見れば、「無謀」に近い挑戦だった。激励の声ばかりではなかった。
「中国語もしゃべれないあなたに、中国人は胸襟を開いて話をしてくれるはずがない。それに、あなたは中国について勉強不足である。問題の複雑性を引き出すのは無理だろう」。頼りにしていた大学の先生から、冷や水をさされた。一方、熱心に応援してくれる人もいた。たまたま出向いた大学生の会合で、ありったけの人脈を動員して、取材対象の選定に協力してくれた仲間に出会えた。対象者は北京で留学中の日本人学生、中国人の学者、愛国サイトの管理者、戦争被害者の遺族など。芋づる式で次から次へと紹介をしてもらってはアポをとり、取材予定表を立て、三週間の北京訪問の日程を固めた。北京へ向う飛行機に同行してくれたのは、日本人大学生のサポーターにボランティア通訳として、東京で留学中の中国人学生だった。10日ほども学校を休んだ上、手弁当だった。
最初の一週間は、「どこに行っても、親切にしてくれた。『反日感情』って、本当にあったのか」と疑ったという。が、時間が経つにつれ、「中国人の日本を見る目に、もっと根深い何かがある。しかし、それは反日教育の結果ではなく、両国間に過去に戦争があったことがバックになっているのでは…」。
専攻は東洋史。しかし、「大学では、唐や明代などの古代史はよく登場する。けれど、近代史にはほとんど触れない。『戦争』という言葉ですぐに思い浮かべることは、沖縄に硫黄島にグアムに東京大空襲。大学に入ってから、重慶大空襲を初めて知り、空襲された所は東京だけじゃなかったのだとショックを受けた」と率直に明かす。
「一過性の反日感情はすぐに過ぎ去っていく。しかし、根深い部分にあるものは時間を経ても継続する。メディアは、この部分にもっと注目する必要がある」と、戦争被害者の遺族に話を聞き終えた後、こう感想をもらした。
人一倍の素直さと率直さが強みになったようだ。遠慮がちな日本人のイメージとはかけ離れ、食事をする時、食べたいものを食べ、飲みたいものを飲み、一切遠慮せずに「自由奔放」に注文をする。周りの雰囲気とすぐさま打ち解け、取材したばかりの対象者と、もう友人のようにつき合っている。不思議な才能の持ち主である。
来春卒業後、通信社での就職が決まり、本格的なジャーナリストになる。それまでに作品を完成して、各大学での放映を実現したいという。自ら企画、取材、制作を手がけた今回の体験は、今後の記者人生の起点になるに違いない。若さとチャレンジャー精神を翼に、頼もしい新人が今にも大空に羽ばたこうとしている。(王小燕)
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