中国では、朝、公園に行けば、たくさんの中高年の方々が太極拳をやっている光景が見られます。中国では、体力作りのために毎朝太極拳をやっている、という愛好者が非常に多いです。ところで、この太極拳の歴史はとても古くて、明の時代にさかのぼります。創始者は、陳王廷という人物で、中国の道家(どうか)に代々伝わる拳法や鍛錬法、また中国医学の思想を結びつけて太極拳を開発しました。その後、19世紀末から20世紀はじめにかけて、弟子たちが改良を加え、現在ではさまざまな流派が生まれています。たとえば、基本には、陳王廷の家系に代々伝わる「陳式太極拳」というのがあります。また、「李式太極拳」「孫式太極拳」「楊式太極拳」「呉式太極拳」なども有名です。
現在、いちばん広く知られているのは「24式簡化太極拳」という流派です。この「24式簡化太極拳」は「楊式太極拳」から生まれたものです。ゆっくり大きく動くというのが「楊式太極拳」の特徴ですが、その中の24種類の動きを取り入れ簡素化したものが、「24式簡化太極拳」です。比較的学びやすく、太極拳の入門編として広く親しまれています。
実は、今年はこの「24式簡化太極拳」が生まれてちょうど50周年にあたります。そこで、先日、50周年記念イベントが北京の人民大会堂で開催されました。大会では、およそ1000人の愛好者達が太極拳を披露し、非常に圧巻でした。
今回の参加者1000人のうち、実は400人が日本人でした。「何でこんなにたくさん日本人がいるんだろう?」と、はじめは驚きました。でも、実はこの太極拳、いま日本でも愛好者が増えていて、しかも、太極拳を通した中日交流が非常に盛んなのです。こうした背景から、中日友好協会などの呼びかけで、日本の日中太極拳交流協会のメンバー400人がイベントのために駆けつけてくれたというわけです。日中太極拳交流協会によりますと、日本の太極拳愛好者は全国で100万人以上、ということです。日本で太極拳がどのように普及していったのか、まずは、そのいきさつを関係者の方に聞きました。今回、日本からの訪問団の団長を務めていたのが、羽田孜元首相だったのですが、このことについて、羽田元首相は「ちょうど50年前、周恩来元総理と古井喜実先生が話し合いを持たれ、日中が本当に親しくなるために太極拳を日本で紹介してはどうか、ということになりました。太極拳は決して争うものじゃないですから」と述べました。
ところで、太極拳の魅力、人気の理由はなんでしょう?今回の取材でいろんな人に話を聞いた結果、太極拳人気の理由は大きく分けて2つあると思います。
まずひとつは、何と言っても「健康にいいから」。実際に愛好者のみなさんに話を聞いたら、太極拳をやっているうちに、体がだんだん丈夫になってきたという声が非常に多く聞かれました。北京市在住の張恵玲さん(58歳の女性)は「私は1992年から太極拳を習い始め、すでに10数年続けています。太極拳は本当に健康にいいですよ。この10数年間、ほとんど病院に行くことがありませんでした。風邪をひいて熱が出ても、食事に気をつけて、太極拳をやっていれば、2ー3日で治ります。薬を飲む必要もありませんね。」と述べました。
また、東京都武蔵野市在住、66歳の松岡さんは「私がまだ仕事をしている時に、会社で太極拳をやっている人がおられまして。健康にいいと聞いていましたので、定年退職したあと始めました。昔は、ひざが痛くて困ってたんです。だけど、2、3年ぐらいたって、現在ひざの痛さは完治しました」と語りました。
もともと太極拳は、中国医学の流れを汲んでいますから、血行を良くしたり気の流れを良くしたりする効果があるようです。また、動きがゆっくりなので、ご年配の方向けの健康法として注目を集めています。
それから、「健康にいい」という以外、もうひとつの理由は、日本での指導も行っている李徳印先生が教えてくださいました。李先生は「中国と日本は一衣帯水、文化の交流も非常に密接であります。ですから、中国の太極拳が日本の方々に受け入れられやすいというのは、あるでしょうね。太極拳は、東洋思想を反映していると言われています。例えば、『静』と『動』、『内』と『外』、『心』と『体』。こうした相対するものがすべて結びついているという考え方が東洋思想なのですが、太極拳の動きの中にもそれがキチンと生きています。きっと、日本人の方も共感してもらえるんじゃないかと思います。だから、愛好者の方も多いのではないでしょうか」と述べました。
太極拳は武術のイメージが強いですが、中国の伝統文化のひとつということで、思想や哲学、いろんな要素を含んでいます。日本の方にとっては親近感を覚える部分も多いんじゃないかと思います。
太極拳は民間交流の一つの手段として、中日両国の交流に大きな役割を果たしてくれるものと期待されています。この点について、イベントを主催した中国芸術文化普及促進会連合の劉樹声副秘書長は「太極拳は、気軽に楽しめる体にいいスポーツというだけではなく、中国の文化を体現したものと言えるでしょう。現在、太極拳は世界中で広く普及していますが、これは調和の取れた世界を建設するために、非常に望ましいことだと思います。文化交流を通じて、相互理解を深めることができるからです。国際交流を行ううえで、ぜひ中国の伝統文化にも目を向けていただきたいです」と語りました。
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