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高層ビルが建ち並ぶ北京のオフィス街。その一角から、子ども達の楽しそうな声が聞こえてきました。ここは、小さな絵本のお店。ピンクやブルー、パステルカラーでまとめられた、やさしい雰囲気の店内。壁に埋め込まれた本棚には、世界各国の絵本・3500点以上が陳列されています。このお店の名前は、「蒲蒲蘭絵本館(ポプラ絵本館)」。日本の方なら、ピンと来たかもしれません。児童文学書の出版でおなじみ「ポプラ社」が中国法人を立ち上げ、昨年10月にオープンさせた絵本館です。
実は、中国の出版事情も徐々に変わってきていて、改革開放以前は、本の出版・販売というと、国の許可を得た国有出版社や国有書店に限られていましたが、解放後は民営書店が許可されたり、大型ブックフェアが開催されたり、競争化が進むようになりました。さらに、中国がWTO・世界貿易機構に加盟すると、外資にも小売や卸売の分野が開放されるようになっています。そうした中、ポプラ社も中国で絵本館をオープンすることができたというわけです。
中国で本屋さんをオープンさせた理由について、ポプラ社の中国法人・北京蒲蒲蘭文化発展有限公司の営業部長・早川晋策さんは「10数年前に北京のブックフェア等々に参加を始めた頃、中国の中に子どものための絵本というものが、あまりにも少ないという実情を見て、我々も絵本の出版社として、何か中国のほうにもいろいろお手伝いができないかと。当初は著作権の輸出貿易ということで、そういう事業に関わり始めました。で、約10年間、そういう事業を進めながら、中国の出版事業が徐々に変わり始めてきたときに、3年ほど前、中国の出版について小売については外国資本にも開放するという動きがあり、それに基づいて今までの著作権貿易から一歩踏み込んで、中国に絵本の文化を普及させるための拠点として、絵本専門の本屋さんをつくろうと思ったんです。」と述べました。
絵本とは、絵が主になった子ども向きの本のこと。絵本などの児童書を専門としている出版社としては、何とか絵本の素晴らしさを中国の人々にも理解してほしいという思いで、中国進出を決めたのだそうです。しかし、その過程では、いろいろな苦労があったようです。早川さんがこんなエピソードを聞かせてくれました。 「お店を立ち上げる以前から、絵本の文化を普及させていこうということで、幼稚園や外で行われるイベントに絵本を持って、お話会・読み聞かせ会を進めていました。中国で子どものための本っていうと、教科書的な字の本がほとんど。ところが絵本は文字が少ないですよね。絵がメイン。絵と少ない文字が合体してひとつの世界を作り上げていくと。それが絵本だと思うんですが、余白の非常に多い絵本なんかを見て、「この余白は何のためにある?メモにするのか?」というようなことを言われたり。わたしたちも気を引き締めてやらないといけないな、と思うことの連続でしたね。」
それが今では、クチコミで噂が広がり、絵本を買い求めにやってくる親子連れが後をたちません。上海など他の都市からインターネットで問い合わせてくる方もいるそうです。圧倒的に中国人のお客さんが多いそうですが、国際都市・北京では西洋人や日本人などのお客さんも多いとか。だから絵本の品揃えも、中国語版、英語版、日本語版、台湾・香港で使われている繁体字中国語版と、多言語に及んでいるそうです。 また、本の販売だけでなく、さまざまな取り組みを行っています。たとえば、絵本の読み聞かせ会を毎週行っています。
取材した日は、日本の絵本作家、かこ・さとしさんの代表作「だるまちゃんとてんぐちゃん」の読み聞かせ会でした。こうした読み聞かせ会をやっている場所は北京には珍しいとのことで、多い時は60人ほどのお客さんが集まるのだそうです。読み聞かせ会では、日本語を読んでから、中国語でもう一度、解説を行うので、子ども達は問題なく理解できていたようです。ただ、早川さんがおっしゃっていたんですが、日本語で読んでも、中国語で読んでも、子ども達は、大体同じところで反応するのだとか。つまり、言葉はあまり関係なくて、絵を見てストーリーを楽しんでいるのです。小説など文字だけの本ではなかなかそうはいかないんですが、絵本だと簡単に国境を越えていける部分があるようですね。
さて、読み聞かせ会とあわせて、絵本館がもうひとつ力を入れている活動があります。それは、中国の絵本作家たちの育成やサポートです。中国の出版社も最近は絵本ビジネスに注目しており、ここ1ー2年のあいだに良質な絵本が多く出版されるようになっています。そうした中国の絵本を広く紹介したり、絵本作家たちの活動の幅を広げてあげたりして、絵本を通じた中日交流が始まりつつあります。
ポプラ絵本館が今後目指すものについて早川さんは「この中国にもっともっと絵本の文化が広がっていく、中国の作家自身の力で世界に広がるような絵本を作り出していく、そういうお手伝いができれば。我々も、お話会などいろんな形の取り組みを進めますし、ここ北京にとどまらず、中国のあちらこちらに出向き、あちらこちらに拠点を作っていくことができればなと。とにかく頑張るしかないですね。」と語りました。
「ポプラ絵本館」のホームページ:http://www.poplar.com.cn
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