アジア共存の願い 筆先に込めて
アジアをモチーフにした書籍は数多あるが、そのほとんどが"現場リポート"的なものだろう。アジアのユニークでビビッドな表情を著者の見聞を元に楽しく伝える。だが亜洲奈みづほさんの著書、「『アジアン』の世紀」は、日本のアジア現象を客観的に、そして俯瞰して論じる点で際立つ。骨太で歴史観のある1冊だ。
著者の"亜洲奈みづほ"はペンネームである。「世界人口の約1/5をも占める中国語において、アジアを意味する"亜洲"。古代日本国の呼称 "豊葦原・瑞穂の国(とよあしはら・みずほのくに)"。つまり"アジアにおける日本や、いかに!?"という意味で名づけたものだという。
黒髪をきっちり整え、清楚なたたずまいの亜洲奈さんは、1973年、東京生まれ。小、中、高とミッション系の学校で過ごしたという。ところが大学入学後の経歴はいきなり華やかに。1992年、東京大学に入学。アジア経済、特に華人研究を専攻した。その一方、芸能プロダクションの俳優養成所に通い、トヨタのCMなどの出演している。さらにはニューミュージック系の音楽バンド "Te Quiero"のリードボーカルや、文化放送の深夜のラジオ番組のDJを担当。まさに容姿にも美声にも恵まれた才媛の八面六臂の大活躍だった。
こうした中、総務庁主催「第21回東南アジア青年の船」日本代表青年としてASEAN 6ヵ国を歴訪する機会を得た。このとき東南アジアの青年と1ヵ月あまりの間、ひとつ屋根の下ともいえる船の中で、同じ釜の飯をわかちあう中で、自らのテーマを"アジア"に定めることとなった。
ところが大学卒業後、フリーの作家で一人立ちしようとしたものの、世の中そんなに甘くなかった。四畳一間でウエイトレス生活にいそしむこととなってしまう。こうした中その体験をもとに、在日外国人シリーズの作品「真秀呂場イリュージョン」を執筆。その後、上海や台湾に語学留学する中で、アジアをテーマにする作家"亜洲奈みづほ"を誕生させていった。現在、なんとこの若さで著書は15冊以上。中には海外版として翻訳されたものも少なくない。
昨年、出版された「『アジアン』の世紀」(中央公論新社/ラクレシリーズ)では、一昔前までは、日本の中でコアでマイナーな人たちだけのものだったアジアが、大衆化し瀟洒でハイソな存在になってゆく様がが、さまざまな角度から語られてゆく。しかも著者は韓国やタイ、ミャンマー、インドなど、アジアの各地の点と点を自在に結びながら、新世代が創る越境文化を論じている。中国語文化圏をウォッチをしている者には、"亜洲奈みづほ"は多少難解かもしれない。だが、著者の"つながるべきアジア"への思いには確固たる哲学があり、一読の価値はあるだろう。
「私が髪を染めないのは、黒髪がオリエンタルであることへの誇りだと思うからなんですよ」ーー、陶器のように白い肌に光沢のある黒髪。亜洲奈さんは美しい作家だった。(満永いずみ)
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