外国人女性のエンパワメントをめざす
在日中国語新聞やネットなどで、中国人女性を仲介するお見合いの案内は少なくない。しかしこうした形で結婚した女性の中で、日本人の夫などからのドメスティックバイオレンスに苦しむ人も少なくないという。こうした女性たちに手を差し伸べるボランティア団体「くろーばー」事務局長の尾上皓美さんに話を聞いた。
■尾上皓美さんはとても印象深い人だった。慶応卒の才媛でアナウンス学校に通い、本格的にテレビキャスターをめざしていた。女優の「小雪」を更に華奢にしたような容姿、テレビの華やかな世界にキラ星のように登場する人のように思われた。
■ところがその6年後、久しぶりに再会した彼女はそれとは全く別世界で活躍していた。在日外国人女性のドメスティックバイオレンス被害者を支援するという活動に身を投じていたのである。
■「流れのままに生きて今の場所にいる」??、そう尾上さんは微笑む。1999年、アナウンサーの夢を断念した尾上さんは北京に留学。帰国後は中国語を使える場所を求め、在日外国人に接するボランティアに参加するようなった。それが縁で大阪市にある多文化共生センターというNPOに就職、相談員となった。ところがそのうちDV(ドメスティックバイオレンス)の相談が増えていることに気づく。中国人やフィリピン人の女性が日本人の夫から暴力を受ける被害だ。だが外国人の問題は在留資格や労働環境、子供の教育と多岐にわたり、相談員が全ての専門性を持つのには限界があった。それでDVのような深刻な相談を専門に受ける団体の必要性を実感し、2003年の5月に支援団体「くろーばー」を立ち上げた。
■DV問題が起きる背景の一つに業者を通したお見合い結婚がある。中国からは貧しい農村の女性たちが豊かな生活を期待して日本人の男性を、一方日本からは婚期を逃した年配の男性が親の介護をやってくれる従順な女性を求めて結婚にのぞむケースもある。こうした婚姻の中には夫から妻への家庭内暴力が生まれるケースも少なくない。しかも妻たちは言葉の問題や在留資格を失う不安から外に助けを求めることができない。「くろーばー」ではそうした女性たちの相談に乗り、必要あればシェルターを紹介し離婚の手続きをサポートする。サポートする側も身の処し方や法律的な知識、語学力がなければならない。
■だがこうした支援者が自治体などから通訳を依頼されても、相応の支払いがないことが多い。尾上さんは警察などで当番弁護士の通訳も行っているが大阪の場合は1回の接見で2万円、だが同じような緊急性や専門性を必要とされるDV被害者の通訳は5000円ほど。中には何も支払わない自治体すらある。
■尾上さんは昨年、大阪外国語大学の大学院に進学した。「地域で人を救う語学」を学問としてまとめることで自治体にもその必要性、重要性をアピールしたい思いからだ。学生をこなしながら同時に支援者養成のため講師としても飛び回る。「実は以前自分自身が職場でのセクハラに悩み、それから逃げるように北京に留学したんです。だからわたしにはDV被害者の気持ちが分かるのかもしれません。アナウンス学校に通っていた経験も、今の講師としての自分を大きく支えることになっているんです」??、流れのままに生きて今の場所にいるという尾上さん、6年前より更に魅力的な女性に変身していた。 (日中メディア研究会 満永いずみ)
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