中国には56の民族があります。私の住む広西壮族自冶区には12民族が暮らしており、世界中に普及した洋服のほか、民族独自の文化や生活習慣を反映した色とりどりの民族衣装を着用しています。
苗族(ミャオ族)には百褶(bai zhe)と呼ばれる藍染めのアコーデオンプリーツや頂盤(ding pan)という頭部に帯状の布を巻く習慣があります。撤尼族(サニ族)は背包(bei bao)という袋を肩からかけ、美しい刺繍を施した背帯(bei dai)で赤ちゃんを背負います。民族や部族ごとに衣装の形や装飾品が異なり、民族の数だけ巻きスカートやギャザースカート、帽子、ネックレス、帯飾り、髪飾り、刺繍の絵柄があります。
私が活動する職業技術学校でも民族衣装に関する授業があります。授業を聴講した際、中国人の先生から「日本には少数民族がいますか」と聞かれましたが、思い浮かんだのはアイヌ民族くらいでした。これだけ豊かな少数民族文化に囲まれて日本の服飾技術を教えていると、逆に中国から学ぶことも多いです。
休暇を利用してシルクロードの要衝の地・新疆ウイグル族自治区を歩いた時には、バザールや職人街に溢れる絹製の絣の織物、装飾品、香辛料などに目を奪われました。この地方の麺料理はイタリア・パスタによく似ており、一説にはイタリア・パスタは中国から伝わったとも言われています。また、中国生まれの絹糸が鮮やかな布に織り上げられ、遠くローマまで運ばれました。「魏志倭人伝」によると、倭の女王卑弥呼が貫頭衣を着ていた時代、当時の先進国・中国では現在の日本の着物に酷似した衣装があったそうです。かつては日本から遣隋使や遣唐使が派遣され、政治的にも文化的にも中国を手本にしていた時代がありました。そう考えると中国が非常に身近に感じられます。
さて、現在地球上には約58億人が暮らしており、うち60~70%の人々が昔ながらの暮らしを営み、民族固有の文化や衣装を継承していると聞きました。中には半年~1年余りの時間をかけて織物や刺繍、アップリケを仕上げ、ビーズやスパンコールをあしらう民族もあります。社会が近代化する一方で、手作業で丹念に作り上げられる衣装は急速に姿を消しつつあります。発展の陰で切り捨てられるものもある、そう考えると民族固有の文化を大切にし、尊敬の念を持って接したいと思います。
中国で暮らすうち、多くの民族に出会い、そんなことを考えました。 (写真:民族衣装に身を包む隊員の教え子)
プロフィール
1992年 福岡県の香蘭ファッションデザイン専門学校でファッション理論、デザイン、パターン(製図)を学ぶ。
1994年 福岡県の婦人服メーカーで約4年半、デザインやパターン、縫製指図等の仕事を手がける。
2000年 青年海外協力隊に参加
現在、広西壮族自冶区南寧市の南寧職業技術学院で教壇に立っています。中国の学生たちはとても明るく素直で、隊員のつたない中国語による授業にもよくついて来てくれるので、とても感謝しています。中国の先生方からも中国の服装について学んでいます。
広西省壮族自治区南寧市・婦人子供服隊員
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