日中関係が最悪の時に思うこと
私は中国人で、私の妻は日本人です。そして私達の二人の娘は中国人でもあり日本人でもあります。彼女達は日中友好の申し子と言えるでしょう。もし、日中の友好関係がなければ、私達の結婚はなく、家族もなければ、私達の子供もいなかったでしょう。だから私は次の世代の為にも、今までのような両国の友好関係が永く続くことを願わずにはいられません。
「中日友好」と?ロに言ってもそれは容易なことではありません。両国が抱える問題は余りにも多く、歴史的問題も解決されていない事も大きな問題の一つであり、また現実の利害関係が絡んで事態はより複雑になってき ている様に思います。私から見れば、それ以上に日中二つの民族にはお互い反省が苦手で相手の弱点を指摘し、拡大して見る傾向があるというような、同じ文化的な素質があることも深刻な要因になっていると思います。まず、具体的な例を挙げましょう。
私が経営している会社の主な業種は石材貿易、つまり、中国から石材製品を輸入して日本で販売することです。今現在、中国の石材製品は日本市場の90%以上のシェアを占めています。日本の石材業者は中国の石を使わないと商売にならない状況で、逆に言えば、もし、日中石材貿易がストップしたら中国にとってはいきなり半分以上の市場を失うという事態になります。つまり互いに切り離せない関係になっています。しかし、日中石材貿易にまつわるトラブルは後を断ちません。日本の石材業界は明確に中国石材業界の加工水準が既に日本並み、あるいは、日本以上になっていると認めると同時に、大量にクレームを付け、中には商品代金を支払わないという業者もあるようです。
私は中国福建省崇武石材組合の顧問にもなっているので、何回も組合の会員から頼まれて彼らの日本の取引先に事情調査に行った事があります。日本側は支払できない理由があると言います。「品質が悪すぎ、作り間違えた所もあるので商品として使えない。クレームに対して速やかに対応してくれない。損が大きいから代金は支払わない。」もしくは、「全額支払うことはできない。」と言うのです。
私は長年石材業に従事しているので、石材には自然性があり、手加工技術のばらつきもあるので日本のお客様が言っていることも理解できます。そして、中国側には中国側の理由があります。 「注文書、図面の加工指示が不完全で検品基準もはっきりしていない。最初から支払う積りがない詐欺だ。」と言うのです。それに対して日本側は 「日本で常識になっていることを説明する必要はない。工場側は悪質だ。」と……。
私が知っている限り日本の業者の中で、詐欺まがいの取引をする人は皆無とは言えないまでも極めて少ないと思います。彼らの問題は中国工場の事情に詳しくない、日本で常識的なことが、中国でも共通の認識だろうと思い込んでいる節があるということです。?方、中国の工場も技術のレベルにばらつきがあっても、悪質とは言えません。彼らの問題は日本市場、日本人のニーズ、日本の検品基準を理解していないことにあります。たとえ、電話、Fax、インターネットが普及していても、クレームなどの問題にそれらを有効に利用することができない。時間、経費、特にビザの問題で、簡単にアフターサービスもできない。中には、中国の工場が日本にいる怪しい中国人に依頼して脅迫まがいの取り立てをすることもあるようです。ここまで行くともう、最悪の事態です。たとえ、商品代金を回収しても取引が続行することはあり得ません。
ここで、皆さんには、もう問題の焦点が理解できると思います。日中双方が真面目に取引したいと思っているのに、お互いにコミュニケ?ションや理解不足による誤解が原因で最悪の状態に陥ってしまうのです。もし、日本側が早めに自分のミスに気がつき、詳しく、丁寧に日本で常識になっていることを中国側に明確に説明すれば、もし、中国の工場はもっと謙虚に日本のお客様に教えてもらったり、確認したりすれば、もし、双方とも、冷静に友好的に対話すれば、きっと違う結果になっていたことでしょう。中国に進出している日本の企業の中には、成功している企業もあれば、失敗している企業もあります。勿論、日本と取引している中国の企業にも全く同じことが言えます。
私は両国の政府から両国の国民まで友好、信頼関係が必要だし、両国の事情を深く理解する人材も多く必要だと思うのです。政治のことは、大変敏感な難しい問題ですけれど、私は日中両国の間に本当に対立しなければならない重要な要素はそんなに多くはないと思います。お互いのコミュニケ?ション不足、理解不足が多くの問題の解決を妨げているような気がしてなりません。考え方と姿勢が結果を決めるのではないでしょうか。
1972年の日中両国の政府の共同声明から日中友好は既に三十数年経ちました。勿論、最初の遠慮から率直へ、表面から実質へ、浅いレベルから密なレベルへという移行がありますが、最近の事態までの変化は実に心配です。日本の一部の政治家が歴史に対して反省せず、執勒に戦犯を供養している靖国神社を参拝していることは日中友好に傷をつけることになるが、昨年のサッカーアジアカップでのブーイングとか、今回の反日デモの中の良識を越えた行為は中国のイメージダウンに繋がると思います。本当の日中友好にはもっと理性と自己反省が必要なのではないでしょうか。そして、本当の日中友好の架け橋をつくるのは、私達日本に生活している中国人に与えられた使命ではないでしょうか。
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