|
|
ミニSL |
芭溝の洋館 |
遠藤啓一さん
2008年1月19日から四川省へ珍しい鉄道を訪ねる旅に出た。
その鉄道の名は芭石鉄路と言い、四川省の省都成都の南、世界最大の大仏で有名な楽山市から更に車で1時間ほど走ったケン(牛偏に建)為という町にある。石渓から黄村井まで全長19.84kmを所要時間1時間15分で結んでいる軌間762mmの軽便鉄道である。
もともとは沿線の炭鉱から石炭を運搬する目的で敷かれた鉄道であるが、この鉄道以外に交通手段が無いので、今でも住民の重要な生活の足となっている。列車の本数が一日4往復と少ない為、列車の通らない時には線路は村と村をつなぐ道路の役割も果たしている。
ダイヤが改正されたため、いきなり3時間待ちとなる。中国を旅する時には何が起きても驚かない事と思い直し、真っ暗なプラットホームに出店している飲食店に腰を据え待つことにする。こんな季節でも同じような物好きな日本人がいるもので、もう一人列車に乗り損ねた同好の士と出会う。飲食店で出来立ての肉まん、万頭と豆乳で朝食。寒い中アツアツの肉まんは体が温まったが、やや塩辛かった。
やがて8時30分に折り返し2番列車になる列車が到着。何年も前から写真で見慣れていたせいか、本物に初めて出会ったのに懐かしささえ感じた。到着した列車は、慌ただしく蒸気機関車を切り離すと燃料補給のため、操車場へ引き揚げていった。写真を撮ろうと思い操車場の方へ向かおうとしたら、ホームにある売店にいた列車員から止められた。仕方なくその場は撮影を諦め一旦ホームに引き返した。昔、蒸気機関車を追いかけていた時の様な貪欲さは無くなっていた。ただ、この場にいるだけで幸せなのである。
|
|
車内 |
観光用客車 |
その後、責任者の案内で観光用客車を見て回る。通常の客車より一回り大きい茶色の車体にクロスーシートの車体である。一般観光客には歓迎されるかもしれないが、遊園地の客車のようで味気なく余り興味の湧かない客車である。機関車のステップに乗って写真を撮ったり、運転台に腰かけたりと至福の時を過ごすことができた。
9時30分待ちに待った初乗車の時が来た。貨車に窓をつけたような不揃いの緑色の客車が7輌連結されている。全ての駅のホームが同じ側にある為、乗降口は片側にしかついていないのが珍しい。座席はベンチシート15席、立ち席も合わせ1輌に乗れるのは20人ほど。
窓ガラスはなく雨天の時は窓枠の下からスライド式に出てくる鉄板を上部で止め、窓を覆うつくりになっている。今日は小雨が降っているので、半分くらいの窓は閉められており、電燈のない車内はかなり薄暗い。開いている窓は吹きさらしである。
やがて、大きな振動と騒音と共に列車は動き出す。蒸気機関車の牽く動きが直接感じられるのが、何とも人間的で親しみが湧く。
各車輌に車掌が2名乗り途中駅からの乗客には切符を売る。ブレーキが全車輌に効くシステムになっていないため、駅の手前が下り坂になっている所などでは、車内についているハンドルを廻し手動ブレーキを掛けるのも車掌の大事な仕事である。それにしても列車が走っている間、実に良く眠る車掌が印象的であった。
|
|
石渓9時30分発の客車 |
新旧客車 |
車輌によっては、豚などの家畜を乗せられるように柵が設けられている。私の目の前の人の足元には鶏が一羽おとなしくこちらをうかがっている。
車内は喫煙可である。狭い車内なのに風通しが良い為か、目の前でタバコを吸われても余り煙たくないから不思議である。
ある意味凄い車輌なのであるが、全てが想像通り、期待通りであったので、何事もなくすんなり受け入れることができた。とにかく嬉しい!の一言に尽きる。はるばるやってきた甲斐があるというものである。
前にも書いたように線路は住民の道路も兼ねているので通行人が多く、ひっきりなしに汽笛を鳴らしながら走るのは、ファンにとってはこの上もないサービスである。全線に6か所トンネルがある。最初のトンネルに入った時、車内には電燈が無いのでもちろん真っ暗闇であるのだが、その上窓から煙が入ってきた。
さぞ煙に咽るのではないかと思っていたが、臭いもそれほどなく心配するほどでは無かった。そのあとのトンネルでは煙は車内に入って来ることもなかった。(続き)
|