中国の伝説では、中華民族の偉大な始祖の一人である炎帝神農氏が、湖北省の西北部に足場を設けて、長い間、薬草を採取したと伝えられています。そのため、ここに神農架という名が付けられました。
このあたりは、中国の南方のものと北方のものとが合流するところです。そして、神農架は温帯と亜熱帯とが接する地帯にあたります。森林が生い茂っていて、動植物が繁殖・繁茂する「パラダイス」となっています。神農架の3000平方キロの範囲の中には、3700種類以上の植物があります。樹木だけでも千種類以上です。
その中には珍しい植物もあります。例えば、ハンカチノキ(Davidia invo lucrata)やカツラ、ユリノキなどは、今から1000万年から8000万年前の地質時代の第三紀から生き残ってきた希少な種類で、「生きた化石」と言われています。
ハンカチノキは中国特産の木です。最初にこの木を見つけたのは、デイビッドというフランス人です。そして、彼の発見を記念するため、ハンカチノキのラテン語の学名に「デイビッド」という名を被せました。後にハンカチノキは、ヨーロッパの人によって西洋に移植され、公園や街角、庭に植えられる有名な観賞用の樹木となりました。この木が中国から伝えられたため、ヨーロッパの人々はこれを「中国ハトの木」と呼んでいます。この木は、ほう葉と呼ばれる葉の変形したものが、広げた白いハンカチのように見えるところから、ハンカチノキという名前を得ました。
これらの木のほかに、2000種近くの薬用植物があります。そのうち、60種類以上が抗ガン作用を持っているそうです。1970年代、ここの原始林の一部が伐採され、生態環境が破壊されたことがあります。環境の悪化を防ぐために、2000年3月から神農架で天然林保護プロジェクトが始まりました。7年を経て、神農架の森林カバー率は88%まで改善されました。
現在、神農架には1050種以上の動物が生息・繁殖しています。そのうちの70種が国家の重点保護動物です。例えば、中国にしかいない希少な動物のキンシコウが挙げられます。小さくて、毛が金色で、かわいい猿です。
キンシコウは、地球に現れてから少なくとも150万年経っています。現在、生き残っているのは3つの亜種に過ぎません。それは、四川省の「川キンシコウ」と雲南省の「テンキンシコウ」そして、貴州省の「黔キンシコウ」です。
神農架のキンシコウは「川キンシコウ」に属しています。キンシコウは、普段は森の中で、数十匹か百匹ほどの群れを作って木の上で生息しています。キンシコウの跳躍力はすばらしくて、木の上で水平方向に一度に6、7メートルも飛ぶことができます。キンシコウが生きて来た150万年の中で、この跳躍力は生存のための重要な武器になったと思います。ここ数年で、神農架のキンシコウは最初の600匹余りから1200匹余りに増えてきました。保護活動の成果が上がって、神農架はキンシコウの楽園となっています。
自然の生態系がよく保全された神農架は、人々の注目を集めています。1990年にユネスコの世界生物圏保護ネットワークに登録されました。1992年には「中国神農架保護区の生物多様性モデルケース」として、国連開発計画が主催した地球環境基金のプロジェクトに選ばれました。
神農架の観光では、自然や動植物のほかに、「神農の壇」というところもお勧めします。これは、神農を記念するために地元の人々が建設しました。伝説によりますと、神農氏の頭にはウシの角が生えていたとされていることから、作られた像にも角が付けられました。また、像は、大地を体に見立てて、頭部だけが作られました。その頭部の高さは21メートル、幅は35メートルもあります。神農架の自然を満喫した後は、この中華民族の祖先に会って、中国文化にも触れてください。
神農架へのアクセス方法
神農架は湖北省の西北部にあります。襄樊市、十堰市、あるいは宜昌市からバスで行くことができます。毎年3月から10月までは、十堰市から神農架へいく観光バスがあります。最も良い時期は、毎年6月から10月まで、つまり夏と秋です。観光区には、多くの見所があります。区内の交通も便利です。でも原始林の中は道が複雑なので、ガイドの案内が必要です。また、森林の中では植物のトゲで怪我をしたり、毒虫に刺されたりする恐れもあります。できるだけ長袖シャツ、長ズボン、長靴、帽子を用意するようにしましょう。神農架の入山料は100元です。日本円にすれば1500円ぐらいです。
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