「♪ピイポウピイポウポポポポピイポウ♪」
本格的なマイカー時代の到来と共に、朝の通勤ラッシュで渋滞する道路沿いの公園から、賑やかな鳥の囀りが聞こえてきます。緑濃い公園の一角にたくさんの鳥かごが吊るされ、鳥たちが競うように大声で囀っているのです。
北京市の中心部から少し西よりの場所に、中国を訪問する世界各国の要人が宿泊する施設、釣魚台国賓館があります。その釣魚台の広い敷地に平行する形で、道路を挟んで細長い公園が設けられ、市民はグループでダンスをしたり体操をしたりと、朝のひとときを思い思いに楽しんでいます。
鳥たちの鳴き声は、そんな公園の中から、混雑する通勤バスの車中に飛び込んできました。そして、はたと思い当たることがありました。というのも、日本を発つ少し前に確かにこの鳴き声を聞いていたからです。
春先、自宅近くのクヌギの木にやって来て「ピイポウピイポウ」と大きな声で囀る鳥がいるのに気がつきました。双眼鏡を持ち出し、野鳥図鑑を調べましたが、それらしい鳥は載っていません。名前が分からないために調べようもないのです。体の大きさはムクドリ程ですが、声といい、姿といい、これまで出会ったことのない鳥でした。結局、鳥の素性は分からないまま北京で暮らすようになり、通勤バスの中で、再びこの鳥の鳴き声を聞いたという訳です。
6月の土曜日、公園に出かけてみました。声を頼りに尋ねて行って目にしたのは、まさに、日本で、双眼鏡で目撃したあの鳥でした。木と木の間に張られたロープに吊るされた鳥かごの数はざっと20個程、その一つ一つにあの鳥が1羽ずつ入れられ、それぞれが「自分こそ一番の美声の持ち主だ」と言わんばかりに「♪ピイポウピイポウポポポポピイポウ♪♪」とやっているのです。
間近に見る鳥の姿に、「やっぱり、あれは異邦人ならぬ異邦鳥だったのか」と感じ入るとともに、賑やかさを好む中国の人たちの気質が少し分かるような気になりました。鳥かごを持ち寄った愛好家たちは、いかにものんびりした様子でベンチに座って話をしたり、カードゲームをしたりしています。鳴き声に特に聞き惚れるでもなく、鳥たちが大声で囀るままに任せているような按配でした。
一方、こちらは中国に来て日が浅いため、ほとんど会話ができません。電子辞書とメモ帳を頼りにやっとの思いで聞き出したのは、鳥の種類は「画眉鳥」ということ、春夏秋冬、家の中でもよく囀るということ、寿命は十年以上ということなどです。3つの鳥かごを吊るしていた尹来喜さんは、メモ帳に「能活十几年」と書いてくれました。十数年はよく生きるということですね。逆に考えれば、十数年は飼い続けるということでしょう。
「画眉鳥」という名の通り、目の上に眉を画いたように白い筋があるのも、日本で目撃したのと同じでした。名前が分かってから、改めてインターネットで検索してみると、日本には江戸時代に入ってきたらしいこと、一部で繁殖しているらしいことも分かりました。
「画眉鳥」は元々野鳥であるため、北京でも新しく飼う事は認められていないとも聞きましたが、愛好家達がこの鳥を大事に育てていることは十分過ぎるほど伝わってきます。あるお年寄りは掌に載せた鳥の背中を優しく撫でてやっていました。日本でも、2ー30年前までは、ウグイスやメジロを飼って鳴き声を楽しむ習慣がありましたが、野鳥保護の観点から禁止され、廃れていきました。中国でもやがてこうした文化が消えていくのかと思うと、少し残念な気もしてきます。それでも、今しばらくの間、時間は、賑やかに鳴き交わす「画眉鳥」の周りでゆったりと流れていくことでしょう。(撮影・文:満尾 巧)
|