江蘇省の民謡(1)「ジャスミン」は、中国の多くの人がなんとなく(2)口ずさむことができるほど、広く親しまれています。
「かわいいジャスミンが満開になった。庭にある花がすべて満開になっても、ジャスミンの香りにかなわない。一輪を取って髪の毛に飾りたいけど、管理人に叱られるのが怖い」。白くかわいい花を摘み取ろうと思っても、いろいろ気になることがあって、取れないという女の子の気持ちが歌われています。無邪気な女の子の気持ちを歌ったというこの民謡は、可愛らしく可憐なイメージを、聞く人に与えます。
ところが、この民謡が作られた経緯を知ると、イメージはまったく変わってしまいます。この歌詞の作者は、明朝を作った皇帝・朱元璋の部下の徐達氏だったと言われています。天下を取るために全力を尽くしたにもかかわらず、徐達氏は皇帝になった朱元璋に疑われるようになり、(3)びくびくとした暮らしを送っていました。都の南京に住んでいた徐達氏は、庭に満開となっているジャスミンを題材にして、毎日(4)薄氷を踏むような気持ちを歌にしたというのです。花を名利に譬え、気持ちとしては名利がほしいけれども、管理人に怒られるのではないか、叱られるのではないかという、心細さを表したのです。「花を取りたい女の子」は自分で、「管理人」は言うまでもなく朱元璋を指しています。メロディが美しい上に、当時南京ではジャスミンの栽培が盛んだったため、この歌はたちまち広く歌われるようになりました。
そして、南京の(5)防人たちは、この歌を今の甘粛省や青海省など西北の国境にまで持っていきました。ジャスミンの栽培が普及しないこの地区でも、今もこのジャスミンの歌が唄い継がれています。
実は、ジャスミンを中国で栽培し始めたのは、およそ1800年前の晋の時代からで、原産国の(6)インド、(7)イラン、アラブ諸国から輸入されたものです。数百年後の1804年、イギリス人がジャスミンの曲を外国に紹介しました。また、120年ぐらい立った1926年、イタリアのオペラの巨匠の(8)プッチーニがこれをオペラの(9)「トゥーランドット」のテーマ音楽に編曲しました。
毎年、5月から8月まで咲く、この小さな白いジャスミンは、周りに甘い香りを漂わせています。中国では、この花で忠節と尊敬を表しています。一方、ヨーロッパでは穏やかで親しみやすいシンボルにしています。
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