バスに乗って(1)ぼんやりとしているとき、なんとなく今までに訪ねた2、3の町を思い出します。東京のような大都市であることもあれば、益陽というあまり(2)名の知られていない中国の(3)田舎の町であることもあります。どうしてこれらの町を思い出すのか、よく考えてみると、その町の並木が脳裏に焼きついていることに気づきました。
北京にいる今、東京のことで真っ先に思い出すのは、その高層ビルではなく、(4)春先に咲く桜で埋め尽くされる(5)中野通りです。(6)満開になった(7)薄ピンクの桜の木は、カーブする中野通りを花のトンネルにしたようです。その下を通る町行く人、車などは、まるでほこりのない静かな夢の世界のように見えました。(8)ショートヘアーの20代の女性が桜の色と似た薄ピンクの(9)トレンチコートを着て颯爽とここの(10)歩道橋を通る姿が、今も鮮明に思い出され、素敵だなと思っています。
益陽は湖南省の小さな町です。おととし2月にこの街に出かけた私にとって当時印象に残ったのは、泊るホテルの若い従業員たちの優しさでした。チェックインの対応をしてくれた女の子の柔らかい口調、荷物を運んでくれた(11)ボーイの気さくさ、忘れ物をしないようにと書いてくれた(12)メモなど、大都市ではあまり感じられない純朴さがありました。その町を観光しているうちに、どこからかうす甘い香りが漂うことに気づいた時、「これは、(13)クスノキだよ」と、地元の学生さんが教えてくれました。ちょうど泊るホテルの隣にある大通りはクスノキの並木道で、東京の中野通りと同じ感じでした。今この町を思い出すと、茂ったクスノキの並木道とこれらの若い従業員の笑顔が一緒に浮かんでくるのです。緑に囲まれたこの町の人々の顔はよりいきいきとして見える上、心を和ませるものがあったからでしょうか。
東京という大都市の中野通りと中国の小さな町・益陽市は、ともに並木道で心が惹かれます。並木も町の一つの表情ではないかと、思わされました。並木がトンネルのように茂るまでには、数十年が必要です。でも、このような町がもっともっとあってほしいと思います。
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