「媽祖(マカオ)」は女神の名前で、福建、広東、台湾などの東南沿海地区の漁民(1)の間では、航海する船を守る女神です。普段は「海神娘娘」とも言い、それをまつる建物は、「天后宮」または「娘娘廟」と言います。北の地方ではあまり広く親しまれていませんが、天津、山東の蓬莱、遼寧の錦州、旅順など海辺の町では信仰されています。
この信仰の始まりは海のシルクロード(2)とつながりが深いようです。媽祖の誕生についてはいくつかの説がありますが、いずれも宋の時代に生まれたようです。宋の時代とは、陸上のシルクロードが衰え、アラビア人(3)が多く利用していた海のシルクロードが盛んになる時代です。その伝説の例を挙げますと、960年旧暦の3月23日、福建省ビ(水へんに眉)州の漁村(4)で女の子が生まれ、林黙と名付けられました。彼女は成長してから、遭難した船の乗組員たちをたびたび救助しましたが、若いうちに救助活動中に犠牲になったということです。地元の漁民たちは彼女の功績をたたえ、長く記憶にとどめるため、「守り神」(5)「媽祖」としました。明の時代、中国の海運や漁業が盛んになるにつれて、「媽祖」信仰も一層浸透し、それまでの海の神様「竜王」に取って代わる(6)ほどになりました。さらに、その信仰は広がり、東南アジア(7)でも民間信仰の対象になりました。また、歴史の流れにつれて、媽祖が守ってくれる範囲も豊かになっています。無病息災(8)、安産(9)、子授け(10)などの役割も果たすようになりました。
旧暦の3月23日、東南沿海の多くの町では媽祖を祭る行事が行われます。高足踊りをしたり(11)、ヤンコ踊りをしたり(12)、獅子舞(13)を踊ったりして、重要な年中行事になっています。その日の夜海一面に灯りを流す風景がなかなかのものだそうです。福建省浦田のビ州島、天津、台湾の北港にある「媽祖廟」は「三大媽祖廟」とされ、行事の日は信者でにぎわいます。北京から汽車で2時間ぐらいの天津(14)へ旅行したとき、そこの「媽祖廟」へ行ってみたことがありますが、毎年「媽祖」を祭る「皇会」が行われ、香港、マカオ、台湾をはじめ世界各地の華僑が多く駆けつけているよと、その従業員が紹介してくれました。
「媽祖」は広東語では「マカオ」と発音します。今のマカオという地名は、ここから来たということです。ちなみに中国ではマカオのことを「澳門」(15)と発音します。
台風が猛威を振るい、大きな被害を出す中、赤いランプを手にした「媽祖」の像が、なんとなく思い出される私です。
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