5月末から6月中旬までにかけて、山東、河北、河南、山西、陜西省など、黄河流域にある地区は、小麦の収穫に追われるシーズンです。これらの地域は中国の主な小麦の生産地であるため、小麦粉でできた食品もバラエティーに富んでいます(1)。山東煎餅(2)、開封(河南)の灌湯饅頭(3)など、深く親しまれています。また、これらの地区では、小麦粉(4)で人形などを作って、飾りものにしたり、贈り物にしたりしています。これは地元では「面花」(5)と呼ばれています。
山西省では、春節の期間中、天、地そしてかまどの神様に、大きな饅頭を供え(6)、供えが終わってから、みんなで食べるという慣わしがあります。「この一年間、家族が食べ物などに悩まないように、お米や小麦粉が山ほどある(7)ことを祈る」という意味が込められています。そして、年始回りの時のお土産(8)は赤、緑、ピンク、黄色など、色とりどりに(9)塗りつけた饅頭(10)です。また、5月4日の清明節句の日、家庭では蛇の形をした饅頭を作り、子供たちに蛇の頭を食べさせます。これには、「体内にある毒が消え、禍が遠ざかるように」という思いが込められています。陜西省では、おばあさんが猫の形をした饅頭を作って、孫に送る慣わしがあります。中国では猫には9つの命(11)があるとみられていて、「孫が猫のようにたくましく育ち、長生きするように」という意味があります。一方、お年寄りの誕生日には、桃の形をした「寿桃」(12)と名づけられた饅頭を必ず飾ります。「長生きしますように」(13)という縁起のいいものだからです。このほか、山東省などでは、結婚式で、新郎新婦の前のテーブルには必ず「面花」が飾られます。夫婦を表す鳥「鳳凰」(14)があり、精巧な細工(15)のようです。
小麦粉を蒸して出来た色とりどりの「面花」の裏には、最も美しいものが潜んでいるに違いありません。
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