北京市中心部にある故宮は600年もの歴史を持っています。明と清の時代には、故宮は皇居でした。今、故宮には国内外から大勢の観光客が訪れます。
皇帝とその家族の住居や仕事場だった故宮の建物は鮮やかな紅色で塗られ、当時の華やかな宮廷生活を今に伝えます。敷地内には、お土産やさんや軽食の小売店が並び、終日、多くの人で賑わいます。この一角に登場した一軒のコーヒーショップが今、大きな論議を呼んでいます。今、中国の都市部に次々と出店を続けている「スターバックス」です。
このお店は2000年に営業を始めました。当初から、中国の大切な文化財の敷地内に、まわりの景観にそぐわない欧米風の店舗があることに反対意見がありました。店側は外観を改良するなどして、対応をしてきましたが、最近またにわかに、この建物に対する是非を問う声が高まってきたのです。
故宮の乾清門前にある広場の東側には黄金色の瑠璃瓦に紅色の壁の建物があります。昔、ここは大臣たちが皇帝に会う前の控え室に使われていました。この建物の一番西側にスターバックスはあります。店の面積は大きくないため、席のないお客さんは外で立ったまま、飲食しなければなりません。隣は故宮に関連するパンフレットや記念品を売る店です。
取材した当日の北京は、とても冷え込んでいましたが、上海からの観光客、周芳さんは外で温かいスターバックスのコーヒーを飲みながら、こういいました。
1<蒋さんの話>
「冬は寒くてたまらないよ。でも、こうやって、温かいコーヒーを一服できるといいよねー」
この論争は、1週間前、インターネットに掲載された1編の文章からはじまりました。「スターバックスよ、故宮を去れ」と題したその文章は、たった6日間で50万回もアクセスされました。それには、「アメリカではスターバックスといえば庶民的なイメージの店である。中国の悠久の歴史と優れた文化を代表する故宮に、こういった店があることは雰囲気を壊しているとしかいいようがない。スターバックスは故宮から去るべきだ」としています。
ネット上では、これに対する多くの反応が寄せられています。全体的には、賛成意見が反対意見を上回っているようです。「われわれは自分達の国の文化を守っていく責任がある。」「アメリカのファーストフード文化がわれわれの名所旧跡を侵すことは許されない」など、この問題に関する意見が相次いで発表されました。
この店ができてから、故宮のなかでは、スターバックスならではの白い紙コップを片手に、宮殿の中を歩く姿がよく見られるようになりました。でも、海外の観光客を含めて、決して賛成意見は多くないようです。アメリカから来たラウル・バスケスさんの話を聞きましょう。
2<バスケスさんの話>
「スターバックスは故宮と合いませんねー。故宮の外でお店をオープンさせたらどうかなあと思うのですが。故宮の雰囲気をぶち壊していますよ。故宮は美しい建物を楽しむ場所であって、営業の場所ではないと思います」
ドイツ人のジョグ・シュミッツさんも同じ見方です。
3<シュミッツさんの話>
「スターバックスに故宮での営業を止めさせるってのは、いい提案だよ。ここは文化の聖地だからね。スターバックスのコーヒーは好きだけど、別にここで飲みたいとは思わない。故宮の外に出て行ってほしいね。」
故宮の運営を行なっている組織では2004年、この問題を討議しました。そして、2005年には、周囲の景観にマッチするように、店の外観を改築しました。現在の外観は、スターバックスを強調するマークなどが、ほとんど見えません。
「スターバックスの是非」については、もちろん賛成意見もあります。外観については、故宮の建築様式と合っているわけですし、むしろ、観光客にとって便利なお店の何が悪いという意見も出ています。中国人観光客の王平女さんです。
4<王平さんの話>
「飲み物が買えることは観光客にとって便利ですよね。中国の売店は、温かい飲み物がほとんど売っていませんから。広い故宮を観光する最中に、ほっと一息休んで、温かいコーヒーを飲む・・・そんな場所があってもいいんじゃないですか?それほど目立ちませんから、景観にも影響はないと思いますよ。」
アメリカ人のロブ・マリンさんは
5<ロブ・マリンさんの話>
「ここで中国のお茶を飲めれば、もっといいですけどねー」
先ほどの王平さんが言うように、故宮は世界最大級の宮殿で、面積は70ヘクタールあります。中を歩くだけでへとへとになります。ですから、お茶を飲みながらゆっくり休める場所が欲しいという意見ももっともです。
では、故宮の運営側はどう考えているのでしょう。故宮博物院弁公室の馮ナイ恩主任は、今後のスターバックスの扱いについて、こういいます。
6<馮ナイ恩主任の話>
「今、入札によって、これらの企画を担当する会社を探しています。もし、スターバックスが、故宮の文化財保護と矛盾するということならば、適切に処理します。今はまだ検討中で、今年の上半期には結論を出す予定です。ただ私達は、故宮の運営も、新しい考え方が必要だと考えています。故宮には、毎年1千万人もの観光客がやってきます。文化財保護はもちろんですが、観光客によりよいサービスを提供することも大切です」
馮ナイ恩主任によりますと、入札によって、飲食関係の企画会社をすでに選んだそうです。文化財の景観保護か、観光客へのよりよいサービスか・・・。また観光地でのサービスとは何かという問題も含めて、中国では今大きな議論が巻き起こっています。今年上半期、これを踏まえて、運営側の改革案が発表されることになります。
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