中国ではここ数年、テレビやウェブサイトで全国規模『オーディション番組』がよく放送されています。それらの番組では、参加者が歌やダンスを披露したり、特技を見せたりして競い、審査が行なわれます。番組によっては、視聴者自身が携帯電話やインターネットを通じて、審査に参加できるものもあります。そして、これらの番組を通じて、一夜にして、スターになる人もいます。
そんなオーディション番組の一つ、「超級女声<スーパー女性ボーカリスト>」をご紹介しましょう。
中国の"地方局"の一つ、湖南省テレビが制作するオーディション番組「超級女声」。参加するのは、10代から20代前半の若い女の子ばかりです。オーディションは、一定期間、継続的に行なわれ、それらの過程は全てテレビで放送されます。視聴者は、携帯電話のメール機能を使って、「これは」と思う女性に投票でき、それにより、出場者が次々と淘汰されていきます。最終的にグランプリが決定するまで、オーディションは続くのですが、その間、出場者には多くのファンができ、最終的にはスター並みの多くのファンを抱えるようになります。出場者の何人かは、この番組をきっかけに、普通の女の子から、あっという間に、全国で百万ものファンをもつスターとなるわけです。
今年の「超級女声~スーパー女性ボーカリスト」は、先日、グランプリが決定しました。優勝したしょうぶんしょう尚雯婕さんは、普通のOLでしたが、グランプリをきっかけに、芸能界に入ることが決まりました。優勝が決まったあと、尚さんは、こういいました。
「オーディションは数ヶ月も続いて、本当に長かったです。でも、努力がようやく実りました。ただ、これは私にとってスタートに過ぎず、決してゴールではありません」
「超級女声」という番組は2年ほど前までは、無名の地方番組に過ぎませんでした。でも、今では、中国全土に放送され、スポットライトを夢見るアイドル志望の女の子達の大きな目標となっています。去年の「超級女声」で上位に入った二人はいずれもアルバムデビューを果たしていますし、そのうち、グランプリをとった李宇春さんは、中国全土の超人気スターとなっただけでなく、アメリカの雑誌「ニューヨークタイムズ」アジアバージョンの表紙に顔を出しました。
「超級女声」は多くの若者から支持を得ている超人気番組です。新疆ウイグル自治区に住む大学生、王魏さんです。
「私は、一昨年から『超級女声』を見ています。私がこの番組を好きな理由は、出場者にすごく共感できるところですね。大陸では、これまで、一般の人がアイドルになれるなんてチャンスがなかったんですが、この番組はそれを可能にしました。これまでも似たような番組がありましたが、レベルがあまりにも高いんです。でも『超級女声』は違います。だれでも参加できる普通の女の子の番組なんです。参加者はみんな隣の女の子みたいな女性ですから、とても親しみがわきます。」
北京の方さんもこの番組が大好きです。
「このオーディション番組が大好きです。参加する女の子達が普通の子からスターになる過程を見ることができて感激します。その中で、歌唱力がアップする様子も手に取るように分かりますし。何だか、彼女たちを通じて自分の夢を叶えているような気がしてくるんです。」
このように、視聴者は、この番組の参加者に感情移入することによって、自らと同じ境遇の人が少しずつ夢を叶えていく過程を自己に重ね合わせ、満足感を味わうのです。2004年に「超級女声」が始まってから、一般の人々が参加するこうしたオーディション形式の番組が人気となり、ほかのテレビ局でも似たような番組を始めるようになったのです。
番組のオーディションは年齢や学歴は問わず、だれでも参加を申し込むことができます。そして予選に合格すれば、即、番組に出演することができます。
視聴者は、携帯電話のメールやネット投票を通じて、自分の気に入った出場者を応援します。数回のオーディションを通じて、最後まで残った人がグランプリとして、タレントプロダクションと契約を結び、人々から羨ましがられる未来を手にするのです。
こういった番組に刺激を受けて、様々なことに挑戦し、意欲的にコンテストに応募しようとする人も増えています。大学三年生の男性、鄭粋さんはあるインターネットサイトで催されているコンテストに応募しました。これは、『インターサイトのイメージキャラクター』を選考するコンテストです。鄭さんはこの場を利用して、自らの才能をアピールしようとしています。鄭さんの話です。
「最後の決勝がまだ残っていますが、僕は今のところ、一位です。このコンテストはまず、『辛抱強さ』が試されます(笑)。コンテストが始まって、一ヶ月あまり。緊張と興奮の連続です。これを通じて、私には『何でもやれる』という勇気が出てきました。この一ヶ月間でこれほど多くの人々が私のことに注目してくださったというのは、これまでになかった経験でした。」
鄭さんが参加する今回のコンテストは、数千人が予選に参加しましたが、現在、残っているのはわずか10数人です。このあとは運次第。優勝できる可能性ももちろんあります。
優勝することはもちろん良いことですが、参加者にとってオーディション出場の意味はそれだけではありません。CCTV中国中央テレビのオーディション番組「夢見る中国」には60を過ぎた"熟年夫婦"が参加しました。夫は「賞をもらうことが目的ではなく、家内と一緒に舞台に出る経験をしたかった。それが夢だったから。」と言います。先ほどの「超級女声」に出る人も、若い女性だけでなく、5、60代の年配の方もいます。彼女たちにとっては、賞をもらうより、参加すること、そのものが貴重な経験だそうです。
しかし、こうした番組に対して、批判の声もあるのも事実です。冷たい目で見ている人もいるし、それを否定する見方もあります。これを番組の「商業化」であるとし、俗っぽいもので、テレビ局の視聴率かせぎでしかないという批判です。甘粛省の郭さんの話です。
「こうしたコンテストはあまりにも効率が良すぎますます(笑)。参加する人にとっては、多くの時間や費用がかかりますし、若い人々に正しい道を示すものではないと思います」
北京市に住む田さんも似たような考えです。
「こうした番組は、単に手軽な娯楽を提供するに過ぎないと思います。しかも、お金をたくさんかけてね。ほかに実際の意味を持つでしょうか。この番組には、視聴者に有意義な楽しみを与える、奥深いものは何もないです。」
評価はさまざまですが、その影響力は無視できないものとなっています。こうしたオーディションから生まれたアイドル達はすでに多くの人々から注目される存在となっていますし、彼らの人生もそれによって、大きく変わっています。
今の中国は学歴、キャリアが大きくものをいう時代といえます。でも、このような道も歩むこともできるのかと、人々に新たな道を示したといえるでしょう。
こうした現象を社会学の立場から分析する学者がいます。中国人民大学社会学部の馮仕政教授です。馮仕政教授の話です。
「この番組の存在は、まず、社会がより民主的になったことを示しています。まず、この番組には誰にでもスターになるチャンスを与えています。そして、一般の人々にも自らの好み、主張を表現する場が提供されました。これまでの社会ですと、一部の人々の声しか聞こえなかったんです。しかし、ここでは、一般の人々が自らの声をみんなに向かって発する機会を与えられました。こうした場は、今後、歌の世界だけでなく、どんどん他の分野に広がっていくでしょう。」
今年も、これらのオーディション番組を通じて、新しいスターが次々に生まれています。それを評価する人、批判する人・・見方は様々ですが、スポットライトを夢見る女の子達の夢をかなえる場所として、そして彼女らを応援するファンたちの思いが集う場所として、中国では、こういった番組が今後、増えていきそうな気がします。
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