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中国の文学界、井上ひさし氏の死を悼む

2010-04-13 19:38:30     cri    

 日本の作家・井上ひさし氏逝去のニュースは中国で波紋を呼んでいます。中国の作家や日本文学研究者は相次いで、井上氏の死を悼み、中国作家協会は井上氏を偲ぶ弔電を送りました。

日本ペンクラブ会長在任中、中国作家協会代表団訪日の受け入れを初め、中国との交流活動を意欲的に推し進めてきた井上氏。逝去のニュースを受け、これまで井上氏と交流をしてきた関係者に話を聞ききました。

■「自転車で北京を回りたい!」

 

中国社会科学院外国文学研究所の許金龍研究員は「たいへんショックを受けています。悲しいニュースです」と話し、これまで進めてきた井上文学の中国語での翻訳出版の予定や、2年前から井上氏ご本人と練ってきた「中国訪問」の計画を初めて明らかにしてくれました。

 中国人大学生10人による「晩年の魯迅」のステージを鑑賞すること。 

 社会科学院で講演し、莫言、鉄凝など中国の代表的な作家と交流会を行うこと。

 宿泊は北京大学の学生寮で、食事は大学生と同じく学食でとること。

 昼間は中国の作家や大学生たちと親交を深め、夜は毎晩、映画や芝居、漫才の鑑賞をすること。

 自転車2台で妻と二人で北京の町をぶらぶらすること…

 もう実現は不可能になりましたが、これが中国社会科学院の訪中要請を受け、井上氏が出した「注文」でした。順調ならば、2009年10月に行われる予定でした。昨年半ば、「10月は日程の調整ができず、予定を一年後に引き伸ばす」という連絡が入り、また、北京のほか、日本軍の空襲を受けた重慶と兵馬俑が見られる古都・西安の訪問も追加されました。さらに、中国人作家の友人たちへのお土産の相談までして、中国訪問を楽しみにしている様子でした。
 昨年秋、肺がんが見つかり、入院後も「訪中日程は今のところ、変更なし」と許氏が訪日した際に伝えたとのことです(写真は許金龍氏が2008年訪日した際の記念撮影)

■ 井上作品集、中国で翻訳出版を準備中

 訪中要請は大江健三郎氏の推薦によるものでした。
 大江文学の翻訳者でもある許氏が、「日本の代表的な作家を紹介してください」と大江氏に頼んだところ、一歳年上の親友で、同じく日本の平和憲法を守る「九条の会」のメンバーである井上ひさし氏を紹介したことがきっかけでした。

 大江文学が数多く中国で翻訳されているのに対し、井上氏の作品は『父と暮らせば』など少数の戯曲しか文学雑誌で翻訳、掲載されておらず、単行本もまだ出されていません。

 「井上作品の翻訳、出版の打ち合わせのため、今月末にも出版関係者と訪日の予定です。まずは戯曲、小説、エッセイなどの三冊からなる作品集を出します。作品リストの選定は大江氏に頼んでいます」、と許氏は現在進めている出版計画を紹介しました。

■南京方言を取り入れた中国語版『父と暮らせば』を高く評価

 許金龍氏は、井上氏は日本が戦争の被害者だけでなく、加害者でもあった立場を忘れずに文筆活動をしていることを高く評価しています。

 「筆致は滑らかで、表現は素朴で飾り気のなく、しかも心を揺さぶる力を有しています。歴史題材に対して、想像力任せではなく、綿密な資料調査に裏付けられた創作が行われています」。

 さらに、『父と暮らせば』の中国語版が社会科学院外国文学研究所刊行の『世界文学』誌で掲載された時のエピソードを話してくれました。

 「この作品には、広島方言で書かれた台詞もありました。持ち味を出すために、中国語でも、共通語ではなく、方言を取り入れたほうが良いのではという提案が持ち上がりました。その結果、南京出身の女性作家崔蔓莉さんの協力を得て、南京方言を取り入れた翻訳版が出来上がりました。後日、井上氏にそのいきさつを報告すると、『すばらしいアイディアだ』と深く感銘した様子でした」。

■井上ひさしから上海万博への「水の手紙」

 『父と暮らせば』を中国語に翻訳した李錦琦氏(写真は李氏が2004年、東北大にある旧仙台医科専門学校の教室を見学した際の記念写真)は、「温厚で、実直な方で、心から尊敬しています」と井上氏の思い出を語り、「先生の死を心から悲しんでいます」と話しました。さらに、「社会、歴史、文化から環境まで、関心分野が広く、原爆のことを日本人の被害の歴史としてだけでなく、人類の戒めとしての視点がしっかりと見受けられます。社会責任感と歴史責任感のたいへん強い作家です。言葉遣いはユニークで、表現は分かりやすく、ウィットに富んでいます」と井上文学の魅力を語りました。


  李さんはまた、井上氏の環境をテーマにした脚本・「水の手紙」も翻訳しました。洪水の氾濫から水不足、水質汚濁など様々な国で起きた水の物語を手紙の形で綴られているこの作品は、上海や杭州の大学生たちの主演により、上海万博での上演に向けて準備を進めている最中とのことです。

 なお、井上氏の訃報に接し、井上氏と親交を深めた中国の作家たちは相次いで哀悼の意を表しました。 

 東京とソウルで2回にわたって井上氏と交流し、一緒に井上氏のステージを鑑賞したこともある作家・莫言氏は、「正義感が強く、気骨のある方でした。作品の中で、全人類に共通した話題を深く掘り下げて取り上げていました。尊敬に値する作家です。75歳という年齢は作家としてはまだまだ活躍できる歳であり、たいへん惜しいです。幸い、たくさんの作品を残してくださり、これからは読書の形で偲びたいです」、と井上氏の死を惜しみました。

(取材・文:王小燕 写真提供:許金龍氏、李錦琦氏)

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