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日本人スタッフのつぶやき305~団地の中のカリスマ理髪師~

2014-10-14 10:32:35     cri    
 「真正的高手在民间(真の名人は民間にあり)」

 最も大好きな中国語のひとつです。

 中国語を勉強し始めて15年。旅行にしても取材にしても、この国でたくさんの人たちと触れ合うと、この言葉の奥深さを身にしみて感じることが多々あります。

 道端で行列ができる"なんでも修理屋"。

 左右それぞれの手で同時に餃子を作る達人。

 自分で作った節水アイテムを無料で配り、団地マダムたちをとりこにする発明王。

 この国には、名の知られていない名人が多くいると思います。

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 「どうしてカット代がこんなに安いんですか?」

 その名人との出会いは、素朴な疑問がきっかけでした。

 団地の路上にあった露天の理髪店です。

 1回のカット代が5元(約88円)。

 私が12年前に留学した大学にあった理髪店でさえ、当時10元でしたので相当格安です。

 「年金生活の高齢者や地方からの出稼ぎ労働者にとっては、5元も大金よ」

 李さん、64歳。

 90年代まで果物を売っていたそうですが、交通事故に遭い左足を負傷。重い荷物を運ぶ必要のない理髪店の世界に飛び込んだそうです。

 「アンディ・ラウのように格好よくしてください」

 「・・・。アンディ・ラウ超えなんて簡単よ。私に任せて!」

 聞けば、李さんは相当な苦労人でした。

 40代の時にご主人を病気で亡くし、女手ひとつで1男1女を育てたそうです。

 現在、政府からの年金手当ては毎月300元(約5300円)。

 その全てが310元の医療保険に消えてしまいます。

 糖尿病を患っている李さん。手提げかばんには、低血糖にならないよう飴玉を常備。

 それでも毎日午前9時から午後6時まで、春夏秋冬、李さんは立ち続けます。

 屈託のない笑顔と歯に衣着せぬ物言いからは、苦労を全く感じさせないのが李さんの魅力。

 私の前には、白髪染めに来た常連さんと楽しそうに世間話をしていました。

 李さんの願い。

 それは今年33歳になる息子さんが早く結婚してくれること。

 自分がまだ動けるうちに孫の世話をしたいんだとか。

 現実は決して楽観的ではありません。お客さんは一日多くて20人。

 寒さが厳しくなるこれからの季節、客足は減るばかり・・・。

 決して裕福ではない。

 少しでも稼いで薬代の足しにしたい。

 息子の結婚式は盛大に祝いたい。

 孫にはおもちゃをたくさん買ってあげたい。

 それでも、他人の暮らしのことを考え、物価が日増しに急増する北京で、値段はずっと据え置きの5元。

 一般的な理髪店では30~50元が当たり前の中、値上げは全く考えていないと言います。

 10分で仕上げたハサミさばきは、相当な"手練れ"。

 心・技ともに、李さんは紛れもない"民間名人"でした。

 元が元だけにアンディ・ラウは叶わぬ夢・・・。

 無理な注文してごめんなさい、李おばさん。(高橋敬)

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