最も大好きな中国語のひとつです。
中国語を勉強し始めて15年。旅行にしても取材にしても、この国でたくさんの人たちと触れ合うと、この言葉の奥深さを身にしみて感じることが多々あります。
道端で行列ができる"なんでも修理屋"。
左右それぞれの手で同時に餃子を作る達人。
自分で作った節水アイテムを無料で配り、団地マダムたちをとりこにする発明王。
この国には、名の知られていない名人が多くいると思います。
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「どうしてカット代がこんなに安いんですか?」
その名人との出会いは、素朴な疑問がきっかけでした。
団地の路上にあった露天の理髪店です。
1回のカット代が5元(約88円)。
私が12年前に留学した大学にあった理髪店でさえ、当時10元でしたので相当格安です。
「年金生活の高齢者や地方からの出稼ぎ労働者にとっては、5元も大金よ」
李さん、64歳。
90年代まで果物を売っていたそうですが、交通事故に遭い左足を負傷。重い荷物を運ぶ必要のない理髪店の世界に飛び込んだそうです。
「アンディ・ラウのように格好よくしてください」
「・・・。アンディ・ラウ超えなんて簡単よ。私に任せて!」
聞けば、李さんは相当な苦労人でした。
40代の時にご主人を病気で亡くし、女手ひとつで1男1女を育てたそうです。
現在、政府からの年金手当ては毎月300元(約5300円)。
その全てが310元の医療保険に消えてしまいます。
糖尿病を患っている李さん。手提げかばんには、低血糖にならないよう飴玉を常備。
それでも毎日午前9時から午後6時まで、春夏秋冬、李さんは立ち続けます。
屈託のない笑顔と歯に衣着せぬ物言いからは、苦労を全く感じさせないのが李さんの魅力。
私の前には、白髪染めに来た常連さんと楽しそうに世間話をしていました。
李さんの願い。
それは今年33歳になる息子さんが早く結婚してくれること。
自分がまだ動けるうちに孫の世話をしたいんだとか。
現実は決して楽観的ではありません。お客さんは一日多くて20人。
寒さが厳しくなるこれからの季節、客足は減るばかり・・・。
決して裕福ではない。
少しでも稼いで薬代の足しにしたい。
息子の結婚式は盛大に祝いたい。
孫にはおもちゃをたくさん買ってあげたい。
それでも、他人の暮らしのことを考え、物価が日増しに急増する北京で、値段はずっと据え置きの5元。
一般的な理髪店では30~50元が当たり前の中、値上げは全く考えていないと言います。
10分で仕上げたハサミさばきは、相当な"手練れ"。
心・技ともに、李さんは紛れもない"民間名人"でした。
元が元だけにアンディ・ラウは叶わぬ夢・・・。
無理な注文してごめんなさい、李おばさん。(高橋敬)
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