「念願がかなって、最高に嬉しいです」。
10月15日、天安門を背に太極拳88式の実演を終えた後、小林栄治さん(東東京市)はほっとした表情を 見せました。前の日の14日が88歳のお誕生日で、これに合わせて天安門広場前で太極拳88式を披露することが長年の夢だったといいます。
シルバーカーを押し、微笑みながら静かに夫を見守っていた奥さんも「感激しました」と嬉しそうな笑顔。二人は昨年、金婚式を祝ったといいます。
小林栄治さんは1921年、東京生まれ。20歳から中国侵略の日本兵として、山東省や朝鮮半島北部での戦闘に参加。日本の敗戦に伴って、捕虜として旧ソ連のシベリアで5年、中国の撫順戦犯管理所で6年を過ごしました。
「シベリアでも反軍闘争などの民衆運動に参加したが、心から気持ちが変わったのは撫順に行ってからのことだった。シベリアでは毎日働いてばかりしたのに対し、撫順では当時、中国人も食べられなかった
1956年、35歳の小林さんは日本に戻り、その後、機械技師として働くかたわら日中友好運動に携わってきました。15年間も戦争で翻弄された青春を振り返ると、「中国と日本の結びつきは何千年も昔から始まり、世界に例のない兄弟のようなものだ。これからほんとに手を携えて、仲良くしていかなければならないと思う」と強く訴えていました。
ところで、小林さんは1972年11月、中国帰還者連絡会訪中団の一員として訪中してから、今回で16回目の中国訪問です。人民大会堂の前を通過すると、「37年前、ここで周恩来総理に会見しました」と懐かしそうに語っていました。
折りしも今回は新中国建国60周年直後の訪問。この間、中国で起きた変化について、「アヘン戦争以降、長い間、半植民地化されていた中国は考えられないすごい発展を遂げた。今はとても大きな力を持っており、すぐに世界一のすばらしい国になる」と感無量の様子でした。
一方、天安門広場は国慶節の飾りつけが撤去されたとは言い、全国からの観光客で賑わっていました。
そんな中、小林さんご夫婦に声をかけた中国人観光客もいました。外国人とは知らずに「おいくつですか」と聞いてきたのは、家族旅行で遼寧省の盤錦市から訪れた李さん。
「矍鑠としていてお元気そうなので、ついつい話かけたくなった。中国では長生きする年配者の方が傍にいると、自分も長生きできる気をもらえると信じられているので」、と小林さんご夫婦の手を握り記念撮影をしました。
突然の挨拶にもかかわらず、小林さんの奥さんもすぐに「若い気をくださり、ありがとうございます!」とユーモアたっぷりにお返しをしていました。
「日本から来たとは驚きです。何よりも中日両国は仲良く付き合うことが一番ですね」、と李さんが二人を見送りながら話していると、またもや二人に女性から記念撮影のリクエスト。
「すみません。私の母と一緒に写真を撮ってください。母は80歳で、まもなくアメリカの旅に立ちます。お二人にあやかって、海外での滞在を楽しんでもらいたいので」、と今度は親孝行の北京市民・張さんでした。
「どうぞ、お元気でアメリカを楽しんできてください」と、小林さん夫婦からの激励に張さんの母親は手を握り返し、満面の笑みを浮かべました。
「皆さんのお陰で、ここまで来られました。これからも日中友好のために頑張ります」。仲良く支えあいながら、二人は名残惜しそうに広場を後にしました。
和やかで、和気藹々とした市民交流のシーンが人々の忘れられない思い出として残ることでしょう。(王小燕)
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