CMG中日対話(抜粋)~新たな質の生産力にみる中日協力

2024-08-09 12:45:34  CRI

 

 

 「新たな質の生産力」を旗印に発展する中国。日本と中国の今後の関係、中日協力にはどのような展望があるのでしょうか。7月末に北京で収録された特別企画「CMG中日対話」から、内容を抜粋してご紹介します。 

■はじめに

 2023年9月、習近平国家主席が黒龍江省の視察の際、初めて言及した「新たな質の生産力」。今、中国の経済界・産業界で注目されるホットキーワードです。従来型の経済成長方式と生産力発展アプローチから脱却し、イノベーションが主導的役割を果たす生産力であり、ハイテク、高効率、高い質、新たな発展理念に合致した先進性を、その特徴としています。

 番組では6人の専門家たちの多様な視点から、「新たな質の生産力」を理解し、中日の協力の展望を探ります。  

CMG中日対話 中国式現代化と中日協力(後半)

■中国の経済・社会のこれまでの発展と今後の課題について、皆さんの考えをお聞かせください。

2018年6月 改革開放40周年を祝う深センのライトショー(出典:視覚中国

汪 中国は改革、開放政策を45年間も堅持してきました。これは中国の発展にとって大変重要な政策だと思います。改革開放の初期から、中国は日本をはじめとする先進諸国から先進技術を積極的に導入してきました。そして、経済特区の設立や外資の導入、留学生の派遣などを通じて、海外の技術や経営ノウハウを取り入れ、国内産業のアップグレードと経済発展を促進しました。 

2024年4月 北京モーターショーの一般公開日(出典:視覚中国

 自動車産業を例として取り上げると、1980年代、外資系自動車企業が中国企業と合弁する形で、次々に市場に参入しました。海外の先進技術や経営ノウハウの導入、サプライチェーンの整備と向上により、中国の自動車産業は急速に発展し、多くの雇用が生み出され、中国の消費者にはアップグレードしたカーライフが提供されました。もちろん外資系自動車企業も中国市場でのメリットを享受することができました。

 中国が現在、世界一の自動車大国となったのは、自らの努力と外部との協力の結果であり、「開放」が不可欠な要素だったと考えられます。 

2021年12月 安徽省銅陵市の村に設置された5G基地局(出典:視覚中国

西村 社会問題が山積している国ほど、リープフロッグ型発展(飛び越えるように一気に新技術やサービスが発展する現象)が見受けられやすくなります。たとえば、固定電話の時代、中国の田舎の方では電話の普及率が低かったのですが、携帯電話は一気に全国に広がっていきました。 

2023年11月 深センでの第25回ハイテクフェア(出典:視覚中国

 今後、中国経済の発展の最大の活力となっていくのは、民間企業のイノベーションだと思います。民間企業ができるだけ自由にビジネスできるような環境が重要です。必要な規制をかけ、安全安心という部分を担保しながら、その中で自由にイノベーションが生まれるような環境を作ってやることによって、どんどんイノベーションが生まれ、中国経済の発展につながり、ひいては、国民全体にその果実が行き渡るのではないかと考えています。

丸川 私も民間企業のイノベーションの重要性については、完全に同意します。「新たな質の生産力」の時代になった時、国有企業がその主体であるのかという点については、大いに疑問があります。なぜなら、キャッチアップの過程では技術発展の方向が予測可能なため、役人が投資を決めても成功確率は高くなりますが、今後は非常に投資リスクが大きくなる時代だと思うからです。果たしてそれを国家がやるべきなのでしょうか。

尹 「リスク」は日本人にとっては避けるべきものかもしれませんが、中国人の捉え方は根本的に違うところがあるように思います。リスクを右から読むと「薬」、「良薬は口に苦し」とも言います。中国の場合は、国があらゆる経営資源、人、モノ、金、ファンドを含めて集約して、問題解決のための突破口を探します。このやり方自体が中国式現代化なのかもしれません。この40年の歩みは、まさに、中国のリスクの積極的な捉え方による成功だったのではないかと思っています。

 中国のイノベーションのプレイヤーは、徐々にその役割を変えてきたように思います。国営企業は、昔はインフラ系、医薬系の事業に注力していました。しかし、最近では、国営企業も本業のだけでなく、ファンドを作り、民間企業や合弁企業に投資する事例もたくさん現れています。

■いま、中国と日本が互いに相手から学べるものは? 

尹 私は二組のキーワードでお話ししたいと思います。

 一つは、顕微鏡と望遠鏡。中国が日本から学ぶべきことは、顕微鏡的な着眼点であり、日本が中国から学ぶべきことは、望遠鏡的な視点だと考えています。

 もう一つは、商人文化と職人文化。たとえば、京都の従業員100人ぐらいの会社で、シリンダーのある部品で世界の6割のシェアを占めているところがあります。小さな会社がその技術によってスモールジャイアンツ(小さな巨人)になっている、こういう事例は日本にはたくさんあると思います。こういったところは、中国は学ぶべきものがあると思います。逆に、日本が中国から学ぶべきことは商人文化でなないでしょうか。売れるものを作ることです。良いものを作っても売れると限らないからです。 

西村 中国はとても大きい国であり、多くの日本人が見ているのは、その中のほんの一部にすぎません。だから、田舎の方に行けば、まだ全然解決できていないような社会課題があり、今後、改善が必要なこともたくさんあります。日本には日本の強みがあります。日本でこれまで培ってきたノウハウは、中国の問題解決に活かせると思います。

 一方、日本が中国から学ぶところが大きいのは、デジタル分野、スタートアップ分野だと思います。中国には、多少の失敗やエラーを受け入れやすい環境があるように思います。たとえば、新しいアプリを使ってみて、ちょっとダメだったりしても、「まあ、しょうがない」と流すような傾向がある。これが日本だと、どうしても完璧を求めたがる。新しいサービスなどに対しては、もうちょっと寛容になって、受け入れるような心構えが重要ではないかと思います。

丸川 私は、人類共通の最大の課題は脱炭素化だと考えています。カーボンニュートラルに関しては、中国は2060年、日本は2050年までの実現に向けた取り組みを国際的に約束しました。日本と中国のこの取り組みを比較してみると、再生可能エネルギーの導入割合が、驚くべきことに、すでに中国の方が日本より比率が高くなっています。中国では昨年、自動車の32%がEVとなり、直近では、すでに40%超えていると聞いています。一方、日本の新車販売のうちEVは昨年たったの3%でした。中国はなぜこんなにスピーディーに再生可能エネルギーを増やせているのか、なぜスピーディーにEVに転換できているのかといった点について、日本には大いに学ぶべきところがあると思います。 

青海省海南州の砂漠に広がる太陽光パネル(出典:視覚中国)

 一方、日本が世界に誇れるのは介護保険です。2000年に介護保険が導入され、すでにこの制度は定着しています。東京には、介護付き老人ホームが非常に多くあり、普通の市民でもそういった施設に入居できるようになっています。

 ただし、この介護保険が公平かどうかについては検討の余地があります。たとえば、介護保険を受給する前に亡くなってしまう人にとっては不平等ではないか、といった批判もあります。日本は世界に先駆けてこの仕組みを実践しているため、いいところもあれば、問題点もあるでしょう。そういうことも合わせて、これから高齢化社会を迎える中国にとっては、参考になるのではないかと思います。

川嶋 今回、番組の前半で農村の身の丈のイノベーションの話をしました。小さな農村のイノベーションにも、テンセントやHUAWEIなどの大企業による最先端のイノベーションにも、実は共通する部分があります。それは、イノベーションに従事する人たちの心構えと、行動です。常に自分の身の回りを少しでも良くしようという気概を持ち、実際にアクションを取っているところなどは、日本が学ぶべきものだと思います。

 高齢化については、中国の方々の関心が介護サービスに偏っているように思っています。実は日本では高齢化の進展によって、社会や一般庶民の生活にありとあらゆる影響が出ています。日本が高齢社会に入った30年前、日本は参考にできる海外の事例がありませんでした。中国の皆さんは、日本や韓国などすでに高齢化に直面している国々に視野を広げ、参考にすることで、中国の将来に役立てることができるだろうと思います。 

公園で練習する高齢者の合唱グループ(出典:視覚中国)

■今後の中日協力についての展望は? 

西村 今後のエネルギー問題は、AIの活用によってかなり深刻になるとみています。特に生成AIの普及によって、データセンターの電力需要が増加しています。既存の従来型発電は環境負荷が大きいため、水素や核融合発電など、いかに環境負荷の小さいクリーンなエネルギーで賄うのかについては研究の余地があります。これは日本と中国だけではなく、世界各国が知恵を絞って取り組むべき課題だと思います。

丸川 私はこの点では、西村先生と違う見方をしています。人類にとって最重要課題は脱炭素化です。もしAIが電力を大量に消費するのであれば、そんなAIは本当に必要なのでしょうか。たとえば、人間の脳だと20ワットぐらいのエネルギーでできるタスクが、AIだと3000ワットかかるという話を聞いたことがあります。AIで省エネできるのであれば有効ですが、その逆ではどうなのでしょうか。

 核融合や水素についても、私はそれほど楽観視していません。核融合は、ネットゼロが達成された2050年以降には有効な電力として登場するかもしれませんが、それ以前には多分間に合いません。水素も現状では、まだコストが高いです。

汪 私は、中国も日本も一国主義の立場を取ってはいないと考えています。中国も日本も東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に参加しており、日本はCPTPPを主導しています。中国と日本は隣国であり、依然として深い経済の相互依存関係があります。 

江蘇省南通のパワーウィンドウモーター工場(出典:視覚中国)

 トヨタ、ホンダなど、外資系自動車企業は中国市場に参入した当初、「For China 」というスローガンを掲げました。この時、彼らはまだ「部外者」でした。その後、数十年間の合弁事業を経て、中国は電気自動車の時代に入りました。そして今、外資系自動車メーカーは次々に「家在中国」(ホーム・イン・チャイナ)のスローガンを掲げるようになり、「For China 」から「With China」に、スローガンを変えました。トヨタ、フォルクスワーゲンなどはもはや、中国市場参入当初の「アウトサイダー」や合弁段階での「参加者」ではなく、中国自動車産業の一員として、共にEV化・スマート化の道を歩んでいます。これは、中日の経済協力には今後も大きな可能性があることを物語る良い事例だと思います。 

尹 今後5年ないし10年の日本企業と中国との付き合いには、3つの方向性があると考えています。

 一つ目は中国市場。具体的には、EVや省エネだけでなく、ヘルスケアも大きな市場になると見ています。日本には「健康経営」というキーワードがあります。これは、社員の健康管理を経営的な視点で考え、推進する仕組みです。そういった市場にもチャンスがあるのではないかと思います。 

2024年4月 北京での世界ユニコーン企業大会(出典:視覚中国)

 二つ目は中国のビジネスモデル。2023年12月現在、全世界の1400社のユニコーンベンチャーのうち、369社が中国にあり、その中の114社が北京にあります。中国のユニコーンベンチャーの重要なポイントは社会問題をしっかりつかんでいることにあります。フードデリバリー大手の「美団」の創始者にその成長について聞いた際、彼は、「私はただの食いしん坊なので、自分がクーポン券で安く食べたいと思っただけなんです」と答えました。シーズ(種)があるだけでは、ビジネスが成功するとは限りません。大切なのは、そのビジネスが社会課題に応えているかという点にあると思います。 

青島の特来電中国新エネルギー生態科技館(出典:視覚中国

 三つ目は第三国市場の共同開発。今年、日本の石油元売り大手のENOSは中国の充電ステーションメーカー「特来電」との提携を発表し、注目されました。この提携の本当の狙いは中国市場だけでなく、おそらくベトナムを含めた東南アジア、そして全世界での充電ステーション市場にあるのではないかと思います。  

 少なくともこの三つのどれかには、中日協力のチャンスがあるだろうと考えています。

■終わりに

 約1時間半にわたる「CMG中日対話」、内容を一部抜粋してご紹介しました。

 番組の最後の質問「中日の互恵ウィンウィンの関係維持に必要なもの」に対し、丸川教授と川嶋理事は「相互の人的往来の再構築に向けた双方の政府の格段の努力」、汪婉教授は「他国に追随する日本政府の不安定な対中国政策を改めること」、尹社長は「和して同ぜずを心掛け、中国も日本も自身の視点だけでなく、世界的な視野で相手を見つめること」とお答えになりました。

 みなさんはどうお考えでしょうか。ぜひご意見ご感想をお寄せください。

(構成:王小燕、校正:鳴海美紀)

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