北京
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5月31日 北京外大での交流会で、学生が描いた「トットちゃんと愛犬・ロッキー」を喜ぶ徹子さん
前編に続いて、トットちゃんは中国の教育をどう変えていったのか、教育関係者や愛読者の声から、その秘密を探っていきます。
■続編出版記念イベントに各地からファンが集結
昨年10月、『窓ぎわのトットちゃん』の続編が42年ぶりに日本で出版されました。中国での翻訳出版は、それからわずか8ヶ月後。北京で5月30日に開催された出版記念イベントには、北京、上海、深セン、天津など各地から多くのファンが集まりました。「トットちゃん」で人生が変わったという3人の愛読者にお話を伺いました。
トットちゃんに教わった「教育は多彩なものであるべき」——李迪さん
李迪さん
深センで朗読公益団体を主宰する李迪(り・てき)さんのスマートフォンには、娘さんが小学生の時に作った歌が保存されています。その歌詞は次のような内容です。
「トモエ学園は良い学校、素晴らしい先生に可愛い生徒、山の味に海の味、それは愛の味、そして自由の味……」
トモエ学園とはトットちゃんが通っていた小学校の名前です。現在、李さんの娘さんは日本の大学に留学中です。
以前、李さんが企画した「トットちゃんゆかりの地をめぐる訪日ツアー」に参加した子どもの中には、現在大学生になり、「将来は現代的な技術と考えを活用し、斬新なトモエ学園を作りたい」と夢見ている青年もいるそうです。
李さんが徹子さんに見せたトットちゃんやトモエ学園の絵
李さんが創設した親子で朗読を楽しむ公益団体「三葉草故事家族」の子たちの絵
李さんはトットちゃんの新刊を手に、「さまざまな個性の子どもがいますが、どの子にも元気に育ってほしい。花ならば咲かせれば良いし、草ならば思いきり生い茂れば良い。教育の姿は、多元的で豊かなものであるべきだと、トットちゃんの本に教わりました」と語りました。
生徒が徹子さんのために描いた絵を説明する陳さん
上海の自閉症向けの特殊教育学校で教師をする、“90後”(90年代生まれ)世代の陳憧(ちん・しょう)さん。母親譲りのトットちゃんファンです。『窓ぎわのトットちゃん』を読み、小児麻痺の後遺症がある泰明くんとのエピソードに心を打たれたと話します。
「トットちゃんに愛と勇気をもらって、私の母は特殊教育の学校をつくり、私もそこで教師になることを決意しました。どんなに大変なことがあっても、トットちゃんのように子ども心を忘れず、歳をとることを恐れずにいたいです」
陳さんはイベントのスピーチで「トットちゃん、あなたが素晴らしい人生を送ってくれたことに、私は感謝します」と黒柳さんへの想いを語りました。
子どもの理想を行動で示したトットちゃんに救われた——大Jさん
大J(ダージェイ)さん(40)は、上海を拠点に活動する幼児教育系インフルエンサーです。
大Jさん
多国籍企業の管理職で長期の海外勤務経験がある大Jさんは、超早産で娘を出産したことを機に辞職。自身の育児経験をネットでシェアし始め、現在は動画配信サイトやSNSなどで約500万人のフォロワーがいるインフルエンサーになりました。
一人っ子世代の彼女のコンプレックスは、教育熱心な親の言いなりになって育ったこと。そんな鬱屈した思いを抱えたまま大人になり、『窓ぎわのトットちゃん』と出会ったと言います。
「トットちゃんの小学生時代の思い出を読んで、子ども時代にあり得たかもしれない、別の人生を知ることができました。それと同時に、心の傷は自分で乗り越えるものだということにも、気づかせてもらえたのです」
大Jさんは、トットちゃんの素晴らしい人生について、「それは大人が押しつける理想とは違う、子どもたち自身の理想の姿そのものです。子どもが持つ可能性を信じるべきだと、トットちゃんは行動で示してくれたのです」と熱く語りました。
■中国に実在する「巴学園」の数々
21世紀に入ると、中国では『窓ぎわのトットちゃん』の薫陶を受けた教育者が次々に現れてきました。
「巴学園」「芭学園」「中国巴学園」「豆巴学園」……。
これらはいずれも、中国の実在の教育機関の名前です。中国の「トットちゃん」ブームは、彼らを抜きにして語ることはできません。
『子どもは足、教育は靴』――北京の「芭学園幼稚園」
北京近郊の芭学園幼稚園は、この5月に創設20周年を迎えました。創設者の李躍児(り・やくじ)園長(66)は寧夏ホイ族自治区の出身。以前は子ども向け美術教室を運営していた彼女が『窓ぎわのトットちゃん』に出会ったのは1982年、文学雑誌での連載がきっかけでした。感銘を受けた彼女は、その後、2004年に北京で幼稚園を設立することになります。
「ぜひ名前は“巴学園”に」と考えた李さんですが、すでに他の会社が社名登録していたため、中国語の発音が同じで、香り高い草を意味する“芭”の字を使うことにしたそうです。
(左)李園長からトットちゃんへのメッセージ(右)『続 窓ぎわのトットちゃん』を手にした李躍児園長
今回のイベントでは、李園長から黒柳さんへのメッセージが紹介されました。
「トットちゃん!あなたのお陰で、芭学園はこれまでに3300人の“トットちゃん”を送り出しました。私はその一人ひとりの中にトットちゃんの姿を見出すことができました。それはつまり、純粋、自然、粘り強く温和。そして機知に富む素朴な子どもの姿です」
李さんは、教育は子どもの成長を助ける存在であるべきだとして、「子どもは足、教育は靴」というスローガンを掲げています。芭学園は幼児教育界から高く評価され、北京のキャンパスが3つに拡大し、2011年からは小学部も設立されました。
峰校長の理念を体現した小学校「中国巴学園」
李さんとほぼ同じ頃、「トモエ学園」の小林宗作校長のユニークな教育に啓発された中国のある教育者が、その理念を勤め先の公立小学校に導入しました。
現在「峰校長」の愛称で親しまれる高峰さんは、当時、山東省東営の小学校で校長をしていました。2004年、生徒の保護者の勧めで『窓ぎわのトットちゃん』を読んだ高さんは、すぐさま自費で100冊を購入し、全教職員に配りました。そして、「中国のトモエ学園を自分たちで作ろう」と誓い合ったのだそうです。
高峰さんが山東省東営で改革を実施した初めての「中国巴学園」(提供写真)
「中国巴学園」では義援金で、「トモエ学園」で使われていた「電車の教室」をイメージした教室を作りました。子どもたちは好きなカリキュラムを選択して楽しく学び、春は山へ、夏は海へと遠足も行われています。好奇心を育む教育はすぐに評価されるようになり、高さんは現役時代に複数の小学校で「中国巴学園」の理念に基づく改革を行いました。さらに山東省だけでなく、後に校長を務めた北京市内の小学校にも「中国巴学園」の碑を建て、子どもの真の幸福を願う学校づくりを世間にPRしました。
「中国の巴学園」を目指して頑張っている学校は他にも数多くあります。「巴学園」は子どもの個性を尊重し、自由な教育理念を導入する学校の代名詞となっています。
高峰が教育の理想像を書いた『小さな蟻さんの学校』
『窓ぎわのトットちゃん』が中国で読まれ始めてから40年あまりが過ぎました。この間、中国は急速な経済成長を遂げ、人々の生活も考え方も大きく変化しました。現在は教育について、より多様で寛容な考えをもつ人が増えています。
中国ではいまも、有名大学に合格するための厳しい受験競争があります。しかし、その一方で『窓ぎわのトットちゃん』の教育に影響を受け、子どもの自主性や想像力を重んじる学校も増え続けています。そして、受験よりもわが子の心身の健康がより重要だと考える親も増えています。トモエ学園のような教育がいつか主流になる日も夢ではないかもしれません。
北京の書店を飾るトットちゃんのパネル
最後に、前出の李迪さんの印象深い言葉をご紹介します。
「子どもたちが愛され励まされながら、もっと素敵な自分に成長し、豊かでカラフルな人生を送るようになってほしい。この世でこれ以上素敵なことはない。これが“小豆豆”を通して実感したことです」
より良い人生を送りたいという人々の素直な思い、子どもたちの真の幸せを考える大人たちの思い。中国での『窓ぎわのトットちゃん』の人気は、人々のそんな思いに支えられています。平和が大好きなトットちゃん、元気づけてくれるトットちゃん、癒してくれるトットちゃん、素敵な大人になったトットちゃん……。トットちゃんはこれからも中国で愛され、中国人の教育風景に影響を与えていくことでしょう。
(取材・記事:王小燕 写真:葛東昇、王蕙林 校正:梅田謙、鳴海美紀)
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