北京
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中国の伝統的な旧正月である春節。その過ごし方やイベントは時代や技術の進歩とともに変わりつつあります。今の中国の春節はどのように過ごされているのでしょうか。
❶年夜飯(年越しご飯)~
「年夜飯」は旧暦の大みそかの夜に食べる年越し料理で、中国では国内のみならず海外にいる人もできるだけ実家に戻り、家族全員そろって食べる習慣があります。一家が食卓を囲んで年夜飯を食べることは中国人にとって最高の幸福なのです。
年夜飯のメニューは、家庭によって異なりますが、豪華な食材や珍しい食材を使って食べきれないほどの料理を作ります。どの家庭でも必ず用意されるのが魚料理です。魚は中国語の「余」と発音が同じであることから、魚を食べて毎年お金が余るほどゆとりのある生活であることを願います。また、肉団子やもち米の団子は「団らん」を願い、中国のお餅「年糕」の「糕」は同音の「高」と重ね、気分、給料、役職などが年々高くなる、年々良くなる願いを込めて、準備されます。主食は、北方地域では餃子、揚子江以南の地域ではご飯が一般的ですが、人の移動に従い、食卓には全国、ひいては海外の名物が上ることも珍しくありません。
一方で、実家にいる高齢者は料理をたくさん作れないこと、若者も多忙で手伝えないこと、また残り物を食べたくないことなどを理由にテイクアウトやレストランを利用して年夜飯を食べるケースも増えています。一カ月ほど前から予約が殺到し始めるといい、老舗店や高級店が人気で、早くも一年前から個室の予約が埋まる店もあります。
❷集五福(五つの福を集める)~
電子決済サービス大手のアリペイが、アプリのスキャン機能を利用した「集五福(福の字を5つ集めよう)」というオンラインキャンペーンを、2016年からスタートさせました。これは、旧暦大晦日の夜に放送される中央テレビ(CCTV)の年越し番組「春晩(春節の夕べ)」と連動したイベントで、レストランや職場などに飾られている「福」の字をスキャンすると、「愛国福」、「富強福」、「和諧福(調和の福)」、「友善福(友情と善意の福)」、「敬業福(勤労に誇りを持つ福)」のいずれかを獲得でき、5種類すべて揃えると番組中に行われる紅包(お年玉)争奪戦に参加できるというもので、総額5億元が参加者にランダムに分け与えられました。
2019年には福の字をスキャンするだけでなく、AR機能を使ってアリペイのゲームに参加したり、質問を答えたりすることでも福の字が獲得できるようになり、1月29日から始まる今年のキャンペーンでは、アリペイにあるミニゲームや、アリペイを運営するアリババ傘下のECサイト「天猫」やフリマサイト「閑魚」など、さまざまなルートから「福」を集められるようになるそう。
❸【微信紅包】(ウィーチャットお年玉)
「紅包」は、お金を赤い封筒に入れたもので、お年玉、ご祝儀、ボーナス、おひねりなど場合によっていろいろな訳し方があります。「微信紅包」は、中国のメッセージアプリ「微信(ウィーチャット)」上の「红包」です。
これは微信で2014年1月27日にリリースされた機能で、2015年の中央テレビ(CCTV)の年越し番組「春晩(春節の夕べ)」で観客と番組とのインタラクティブな交流に用いられ、一気に一般化しました。番組の放送中、スポンサーから放出される紅包を、視聴者が限られた時間、ランダムに受け取れるシステムで、好奇心旺盛な視聴者たちは夢中になって取り合いました。
その後、多くの企業が「微信紅包」と連動させたイベントを展開し、熱狂的なブームを巻き起こしました。一方で、メッセージアプリ上での金銭のやり取りについては、当初、疑問視されたり、問題になったりもしました。しかし、セキュリティを含むさまざまな機能が徐々に整ったことで、現在はすっかり生活の一部となっており、「微信紅包」は中国式フィンテックの浸透の起爆剤になったとも言えます。
「微信紅包」を送れる金額には上限があり、最高額は200元となっています。特別な日には上限が引き上げられることもありますが、翌日にはまた元に戻されます。この機能を使ってマネーロンダリングなどの違法行為をすることを防ぐことが理由のようです。200元より多い送金は、「微信転帳」(ウィーチャット振込)か、直接銀行のアプリで行えます。
今や「微信紅包」は中高年を含めて一般的になり、春節だけでなく、その他の祝日や誕生日、記念日とたくさん飛び交っています。
❹【春節帳単】(春節の出費明細)&【春節経済】(春節経済)
中国人の「春節帳単」を見てみると、「年貨」(春節に向けて準備するあらゆるもの)、年越しの「年夜飯」、年始回りの贈答品や差し入れ、お年玉、雑費(廟会などでの消費や交通費、映画など)と、その内容はさまざま。帰省する場合は、往復の飛行機代や電車代が、旅行なら、関連する出費もすべて含まれます。
「年貨」とは春節期間中の食材や、お菓子やおつまみ、飾り物などのこと。贈答品としては、かつて中国社会では新しい服を着て正月を迎える習慣から衣服を贈り合いましたが、最近はいつでも新しい服が買えるため、目上の人には健康や趣味に関する商品を贈るケースが目立ちます。EC大手京東(JDドットコム)が発表した「2023年春節休暇消費趨勢報告」によると、春節期間中の総売り上げのうち、スマホ通信関連、家電製品、医療保険などの成約額が占める割合は上昇しており、特に健康商品が人気となっています。こうした春節の出費は、帰省の交通費を含めると一人あたり2万元以上、旅行費用を加えればさらに跳ね上がります。
「春節経済」は、春節にまつわる経済活動を指します。春節期間中は上記の理由から特に消費が伸び、経済成長が促されます。近年は海外旅行に出かける人も増えていることから、その旅先となる周辺国へも影響が広がっています。「春節経済」は春節前、春節期間中、そして、春節後という3つの区分に分けられます。
春節前は、春節を過ごすための準備として、「年貨」つまり飾り物や食べ物、雑貨のほか、贈答品などが市場の主役になります。そのため、各ECサイト上でも大型セールが催されます。また、旅行業界も活況となり、春節連休をターゲットにした観光商品がたくさん出揃います。
春節期間中には、多くの中国人は近所の「廟会」に出かけます。「廟会」とは日本の縁日にあたり、さまざまな料理やゲームが楽しめる露店、大道芸人や伝統芸能のパフォーマンスが楽しめることから、大勢の人が集まり、近年は地方経済を潤すビジネスチャンスにもなりつつあります。また、家族で映画を見に行く人も多く、最近は、「春節档」、いわゆ「お正月映画」も多く、また、コンサートや演劇でも「春節档」は人気です。外出しない家庭でも、連休でストックの食料などが枯渇することから、追加の買い出しで多くの消費が促されます。
そして春節後はというと、食べ過ぎた春節の反動で「ダイエットシーズン」に。肥満対策の食品やグッズが売れ、ジムには新規会員が一気に増える時期です。また、新年とともにインテリアを見直す家庭も少なくありません。
春節期間は、社会経済は潤いますが、一家の財政にとっては大きな試練の時期かもしれません。
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