北京
PM2.577
23/19
業界でも中国通として知られる小澤秀樹さん。その中国駐在歴は、2024年で20年目に入ります。
笑うと瞳の奥が輝き、口元は「スマイリーフェイス」のように、にっこり。トレードマークは赤地のネクタイ。そんな小澤さんが社長を兼任するキヤノンアジアでは、朝は声出しのあいさつから始まります。月曜は「パッションデー」。社員に「赤い何かを身につける」ことを呼びかけます。そして、入門の顔認証には「笑顔」が必須といった、ユニークな企業風土が確立されています。
2023年の最後の仕事日に、「ゆく年を振り返り、くる年を展望する」をテーマに、北京のCBDにあるキヤノン中国本社で小澤社長にインタビューしました。
■2023年は「非常に印象深い年」
1981年、小澤さんは中国大陸に初めて足を踏み入れました。当時、米国駐在だった小澤さんは香港出張のついでに、広東省の中山を訪れたそうです。その頃の中国は改革開放が始まったばかりで、「将来性に満ちた国」という印象だったものの、自身が中国とこんなに長くかかわるようになるとは思わなかったそうです。
駐在が20年にも達した理由について、「中国はキヤノンにとって最も重要な市場だから」と小澤さんは言います。
杭州アジア大会開会式の様子(写真:視覚中国)
過ぎ去った2023年は、中国では新型コロナウイルス感染症が沈静化し、経済・社会活動が再開した年でもありました。小澤さんは、「3年間できなかったことが一気にできて、非常に印象深い年になった」と話し、その中でも、キヤノンがメインスポンサーとして協賛した「杭州アジア大会」が「最もやりがいを感じ、思いっきりフルスイングもできた」イベントだったと振り返りました。とりわけ開会式の 「徹底した芸術的なパフォーマンス、人の動員力」に深く感動したそうです。
◆写真文化の下地整えた「スマホさん、ありがとう!」
今、世界では社会や経済の不確実性が高まりつつあります。「VUCA(ブーカ)時代」といわれる先行きが見えない社会の中で、小澤さんは「2023年はさまざまな動きが経済に良い、あるいは悪い影響を与えたと実感した年でもあった」と言います。
そんな環境の変化に対応するため、キヤノンは強みを結集して有望な分野に注力する「選択&集中」の戦略により、今後も成長を目指し続けていくそうです。
2023年6月に開催された大連市第34回「キヤノン杯」日本語弁論大会の模様(提供写真)
その一例となるのが同社のカメラ関連の動向です。今年、中国ではリベンジ消費として観光業が盛り上がりました。その波に乗り、キヤノンはさまざまな「オフライン旅行」をテーマとする販促イベントを展開。バードウオッチング、星空旅行など新たな観光トレンドに応える多彩なプロモーション活動を実施しました。
ところで、スマートフォンの普及はカメラの購買に、どんなインパクトをもたらしたのでしょうか?小澤さんはとりわけ、若者市場のポテンシャルに注目しています。中国のミレニアム世代とZ世代の人口は合わせて約5億人にもなるからです。
小澤さんは、「彼らのほとんどがまだカメラを持っていないことを考えると、まさにブルオーシャンだ」と語り、「良い製品を買いやすい値段で、魅力的なスペックを出していけば、非常に開拓できる可能性がある」と、スマートフォンの普及を、むしろプラス思考で捉えています。
さらに小澤さんは、「カメラ市場に最近面白い“変化”が起きた」と続けました。
「スマートフォンの普及で、毎年、世界で撮られる写真のショット数が劇的に増えた。それが結果的に、カメラが再び注目されるようになる下地を整えた。今は、『スマホさん、ありがとう』と言いたい」
中国の若者にとってもSNSは欠かせない存在です。たくさんの「いいね」をゲットするために、スマートフォンでは撮れない、より完成度の高い写真を撮りたい。そんなニーズから再びカメラに注目が集まっているのだそうです。小澤さんは、まさに「塞翁が馬」だと語りました。
■「乗風破浪 2024年を良い一年にしよう」
小澤さんが2024年に寄せた言葉は「乗風破浪」
乗風破浪(荒波を越え 風に乗る)
疾風知勁草(疾風に勁草を知る)
全力以任(全力投球する)
変被動为主動(受動を能動に変える)……
これらの言葉は、いずれも小澤さんが社内で愛用する中国語です。『貞観政要』『菜根譚』など中国の古典に基づく経営本を愛読しているという小澤さんは、「中国で何かを伝えたい時には、英語よりも中国語のほうがストレートに伝わる」ため、中国語の慣用語を好んで用いています。
また、中国国内の動向も常にチェックしています。昨年8月、中国国務院は政府調達や標準策定において外資を平等に扱うことを強調した「外資誘致の24項目の措置」を発表しました。さらに、年末の中央経済活動会議では、「ハイレベルの対外開放の拡大」を2024年の重点的な取り組みの一つに組み入れています。この一連の中国政府の動きに対して、小澤さんは「外資に差をつけない」という点について、「非常にありがたい。力になる」とポジティブに評価し、具体的な実施について期待感を示しました。
一方、海外メディアを賑わせてきた「中国経済崩壊論」については、「中国の経済が崩壊すると、世界の経済は崩壊する。それだけ、いま中国はいろんな国と強いコネクションにある」と語り、崩壊論を一蹴しました。20年間の中国市場で培われた肌感覚に基づく小澤さんの発言には力強さがあります。
最後に、今後の中国市場について、小澤さんは次のように抱負を語りました。
「中国の消費者はどんどん目が肥えて、賢くなっている。欲しいものは多少高くても買うが、欲しくないものは安くても買わない。キヤノンとしては、消費者たちが欲しくなるようなものを、ライトタイミング、ライトプライスでちゃんと出していかないとダメだと思う。そこがちゃんとできていれば、中国で成長を続けることができるだろう」
【プロフィール】
小澤秀樹(おざわ ひでき)さん
キヤノン株式会社 副社長執行役員
キヤノンアジアグループ 総代表
キヤノン(中国)有限公司 社長兼CEO
慶応大学法学部卒業、1973年キヤノン入社。米国やシンガポール、香港の勤務を経て2005年キヤノン(中国)有限公司社長兼CEO。2017年からキヤノン副社長執行役員。
■キヤノンと中国とのかかわり
1979年 周恩来総理夫人の鄧穎超氏がキヤノン本社を訪問
1981 年 中国の会社と技術提携を開始
1997年 キヤノン(中国)有限公司設立
現在中国大陸に14会社 従業員約2万人 中国への累計投資額1千億円超
(聞き手&記事:王小燕 校正:鳴海 映像:沈圓)
◆ ◆
記事へのご意見・ご感想は、nihao2180@cri.com.cnまで。件名に【CRIインタビュー係りまで】と記入してください。お手紙は【郵便番号100040 中国北京市石景山路甲16号 中央広播電視総台亜非中心日語部】宛てにお送りください。スマートフォン用アプリ【KANKAN】の【アカウント一覧】にある「CRIインタビュー」からも直接投稿できます。ダウンロードは下のQRコードから。皆さんからのメールやお便りをお待ちしています!