【観察眼】『紅の豚』の中国での好評上映から読み取れるもの

2023-11-29 22:12:34  CRI

 この冬、宮崎駿のアニメが中国でまたもやブームを巻き起こしている。

 この6月に『天空の城ラピュタ』が中国本土の映画館で公開されたのに続き、11月17日から、1992年公開の名作『紅の豚』も中国の全国芸術映画上映連盟の加盟映画館で上映が始まった。

 注目すべき動きは、映画の上映に伴って、北京の映画館や大学で『紅の豚』に関するトークセッションや学術会議が続々と開催されていることだ。学者による宮崎駿の研究本も再び注目されている――中国の宮崎ファンたちはただストーリーを追うだけの鑑賞方法にはもう飽き足らず、創作過程や時代背景と結び付けて、作品に内包されているさまざまな記号や宮崎駿監督が本当に表現したいことも掘り下げて解読したいと願っている。

 世界のことをもっと深く知り、もっと踏み込んだ対話をしたい――宮崎ファンに代表されるこうした姿勢は、現在の中国人が世界と向き合う際の姿勢そのものでもある。

 宮崎駿監督や日本のアニメ映画を代表する「ジブリ映画」への深読みの動きが起きているのと同時に、中国での「日本学」研究も盛んになりつつある。

 45年前の「中日平和友好条約」の締結により、両国はさまざまなで分野での往来を深めてきた。そうした時代背景の下、1980年代半ばに中国で新たな学科として「日本学」が誕生し、大きな発展を成し遂げてきた。そうした中、11月25~26日に北京外国語大学で開催された、中国の「日本学」研究に焦点を当てた国際学術シンポジウムには、全国の10以上の大学、シンクタンクおよび日韓の学者、専門家、学生200人余りが参集した。

 「国の交わりは民の相親しむに在り」という言葉があるが、国民同士の交流には、言語が重要な架け橋となる。その意味で、中国の日本語学習者の動向は2国間関係を写し出す鏡の一つでもある。『観察眼』の論説員も北京外大で開かれたシンポジウムに出席したが、その場で深く感銘を受けたのは以下の点である。

 一つは層の厚さである。中国大陸部の計2820大学のうち、500余りもの大学が日本語学科を設けている。これは「日本学」研究の人材育成に十分な予備軍を提供していると言える。

 二つ目は質の高さである。シンポジウムで行われた発表が実に多岐にわたっており、日本の近現代思想史、政治史をテーマとしたものもあれば、高齢者介護、村おこし、新エネルギー車など社会問題への関心を題材にしたものもあった。具体的には、竹内好、丸山真男、吉野作造、李大釗ら知識人の対中/対日認識論をめぐる発表もあれば、日本アニメの女性像、「水」という日本語表現の認知言語学的研究、日本の古辞書と中国の字書の比較研究、「結婚も育児もこわい」社会現象の中日比較など、小さな切り口からのディープな研究も数多くあった。

 三つ目は時代とともに進化する姿勢である。

 2国間の学術交流が深まりつつあることを背景に、インターネットや通信技術による力添えもあって、中国の学者は資料収集、情報取得などにおいて、日本国内にいる学者にひけを取らず、ほぼ歩みを同じくすることができる。これは関連する研究が比較的順調に進められる前提になっていると言える。

 次に、人工知能(AI)や大規模言語モデル(LLM)などの普及が分野横断の傾向を加速させている。そのため、それぞれの大学の強みを活かして、語学に国際関係、世界史、貿易、ハイテクなどのような、もう一つの専攻を組み合わせて育成する「日本語+」が新学科として確立されつつあり、新時代の中国人の日本理解に新たな視点をもたらしている。

 四つ目は「他者」との向き合い方である。基調講演の部で、複数の学者が強調したのは、世界との対話という広い視野の下で、日本をしっかり「他者」としてとらえ、より客観的、理性的、包括的に理解を深めるべきだということだった。日本語専攻の人材育成目標については、天津外国語大学の修剛元学長の言葉が来場者に深い印象を残した。それは、「日本語学習を通して、国際的な視野を持ち、異文化とコミュニケーションが図れる、世界に通用する人材を育成する」というものだ。

 このシンポジウムの出席者の発言からも分かるように、中国のますます多くの学者や若者たちがより理性的な姿勢、より成熟した心構えで日本を見つめ、日本のことを深く知りたいと思っている。彼らにとって、「日本学」は日本そのものに対する研究であると同時に、隣国や地域、ひいては世界そのものを観察し、また自分自身をより豊かにするためのメソッドでもある。これこそが、『紅の豚』が中国で注目を集める背景でもあると言える。そうした社会現象から読み取れるものとは、より自信に溢れ、より冷静な姿勢で、世界に対する知的好奇心を高め続けている中国人が増え続けているということである。

 一方、足元の中日関係に目を向けると、両国の指導者は2019年に新時代にふさわしい中日関係の構築で合意したものの、現実には依然として解決を要する複雑な課題が数多く残されている。だが、はっきり言えることは、自信があり、謙虚で勉強好きな中国人が増え続けており、この動きは新時代の中国と日本との付き合い方、そして、中国と世界との付き合いにとってポジティブなエネルギーを注ぐに違いないということである。(CMG日本語論説員)

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