輸入博に出展する日系企業~住友電工貿易(深セン)有限公司・武尾 敬三董事総経理に聞く

2023-11-07 12:25:13  CRI

 

 世界から3400社余りの企業が出展する第6回中国国際輸入博覧会。大企業ランキング「フォーチュン・グローバル500」に名を連ねた企業の参加も多く、業界トップと呼ばれる多国籍企業は過去最多の289社を数えます。その中の一社が日本の住友電気工業株式会社です。2021年の第4回輸入博に初出展し、3度目の出展となる今回の輸入博では、光ファイバの敷設工事に欠かせない多心光ファイバ融着接続機などを展示しています。

 創業126年の住友電工は1977年に中国香港に進出。現在、中国事業は関連会社98社、従業員4万人あまりの規模に成長しました。売り上げはグループ全体の16%を占め、主力商品の一つである光ファイバ融着接続機は、中国市場で25%のトップシェアを占めています。                                         

CMGの取材に答える武尾敬三・董事総経理(11月2日撮影)

 住友電工の輸入博に寄せる期待、中国市場の見通しなどについて、住友電工貿易(深セン)有限公司の武尾敬三・董事総経理(53歳)にマイクを向けてみました。昨年6月に深センに赴任した武尾さんにとって、今回は約20年ぶりの中国駐在です。後半では武尾さんが実感した中国の20年間の変化についてお伺いしています。中国人の価値観の変化、つきあい方の変化など、貴重な体験が詰まったお話をぜひお読みください。

■輸入博の出展「大きな意義がある」

2023年第6回輸入博・住友電工のブース

――住友電工は今回で3回目の出展です。御社にとって輸入博はどのような場ですか?

 輸入博は市場を開放する中国の魅力を感じる場です。私たちは出展を通して、中国社会に当社の歴史、理念、製品に対する理解を深めていただきたいと思っています。また同時に、来場者やバイヤーとの交流を通じて、中国のニーズやトレンドを掴み、ビジネスに活用したいと考えています。

 輸入博の特徴の一つは、メディアに対する露出が大きいことです。住友電工のビジネスは一般消費者向けよりも法人向けが中心ですので、なかなか一般の社会の中では名前が浸透しにくいんです。輸入博での出展は、住友電工のブランドイメージの向上に大きく貢献します。そこに大きな意義があると思っています。

 さらに、輸入博の開催前からいろんな地方でマッチング会があったり、開催後もメディアで取り上げていただいたり、弊社の広報活動でも再利用できるため、非常に有効だと感じています。

――これまでの出展の手応えは?

 私どもは毎年、主に融着接続機の新製品を発表しています。それを通じて、新しいお客さんを獲得することができます。もう一つは水処理事業で、新しいシステムをお見せすることで、今までご縁のなかった地方政府と関わりをもつ機会もあります。昨年の第5回輸入博では、「中国電信」(中国大手の通信事業者)と提携を深める合意を行いました。

――今年の展示のハイライトは?

 今年は当社の「中期経営計画2025」で公表した「つなぐ・ささえる 技術でグリーン社会の未来を拓く」というスローガンに基づき、特に脱炭素社会及び情報通信社会の発展に貢献すべく、展示の目玉として水処理関係の新設備、各種電気自動車に使われる自動車部品といったものも幅広く紹介しています。また、光ファイバ融着接続機の最新型「多心融着接続機」の発表も行われます。

第6回輸入博に出展される多心光ファイバ融着接続機

 ――今後の輸入博に寄せる期待は?

 元々、輸入博の精神というのは、「中国はまだまだ積極的に海外のいろんな新しい技術を受け入れたい。そういうプラットフォームを作りたい」というメッセージだったと受け止めています。それをぜひ堅持し続けていただいて、ずっと開催を続けて、発信し続けてほしいと願っています。

 ■中国社会の変化とともに変わる中国ビジネス

――武尾さんと中国の関わりについて教えてください。

 私は大学在学中の1992年に、内蒙古で開かれる学生交流プログラムに参加するために、中国を初訪問しました。住友電工に入社してからは、「もっと中国のことを知りたい」という思いから、1995年に会社の制度で北京に1年間留学しました。

 その後、2001年から3年間上海に駐在し、帰国後は廈門や香港の海底ケーブルの案件を担当したこともあり、昨年6月、約20年ぶりに中国に赴任となりました。

1997年、住友電工は中国通信建設と西安で融着接続機のメンテナンス拠点第1号を設置

――上海駐在の3年間に、現地法人6社の新規設立に携わったそうですね。

 そうですね。私が上海に駐在していた2000年代、電力ケーブルの分野では、まだ中国には500kV の超高圧ケーブルや海底ケーブルは作れるメーカーがなく、日本から輸入するしかありませんでした。そこで、日本から指導者が行き、現地の工事会社を協力しながら一緒に工事をするという形で事業を拡大していったんです。

 当時の中国ビジネスで最も多かったのは加工工場の設立で、輸入の際の免税手続きなどが非常に複雑でした。当時の華東地区は外資企業に非常にサポーティブで、いろいろな形で優遇を得られる保税区を作るなど、外資にとってメリットが高いエリアでした。
 当時設立した6社は、その後に形が変わったところもありますが、ビジネスとしてはずっと残っていることを考えると、感無量です。

武尾さんが設立にかかわった住友電工光器件(無錫)有限公司の製造ライン。ここには現在、住友電工の中でも最も自動化が進んだ光コネクタ製品の製造ラインが整備されているという

――これまでの20年で中国社会には大きな変化が生じましたが、住友電工の中国ビジネスへの影響は?

 私が20年前にやっていた頃のメイン・ビジネスは電力ケーブルでした。今では中国でも500kVのケーブルを作れるようになっているので、我々のメインビジネスは5Gでも使われる通信デバイスなどにシフトしてきています。今年の輸入博に出品する最新型の「多心光ファイバ融着接続機」は、複数本の光ファイバを一度に接続可能で、工事の効率化につながります。今回はアジアでの初発表となります。これが一つの例ですが、中国の社会の変化、競争の変化に合わせて、住友電工も中国社会で貢献できる製品が変わってきています。

2020年、住友電工の融着接続機はチョモランマでの5G基地局工事に採用 

■「中国市場でつけた競争力をベンチマークに」

――住友電工にとっての中国市場の位置付けと今後の見通しは?

 中国は市場規模が大きく、決して無視できない市場です。中国で今、住友電工が特に重視しているのは「脱炭素社会」と「情報化社会」に貢献する技術・製品の提供です。

 中国市場はビジネスチャンスはあるけども、競争も厳しいです。会社としてしっかり力をつけて、競争の中でも勝っていけるような力を持たなきゃいけない。そうした部分について、本部にも訴えていかなければと考えています。

 中国市場で一定の競争力があれば、他の市場でもある程度の競争力が持てるという考え方もできると思います。個人的にはそういった形で、中国市場での競争力を一つのベンチマークにすることができたらいいなと思っています。

――「中国ビジネスならでは」の特徴もあるとお考えですか?

 正直に言えば、僕はどこの国も一緒だと思っているんです。どこの国でも大事なことは、相手国の商習慣や考え方、文化価値観というのをよく理解することです。その国、その土地でビジネスをさせていただく以上は、パートナーに、お客様に、その国に対し、貢献ができるような考え方が大事だと考えています。

 単にここで作ったらコストが安くなるからとか、ここは土地が広いからとかいうことではなく、現地のパートナーの立場に立って、彼らにもメリットを感じてもらうようなビジネスプランを作ることが大事だと僕は思います。

■暮らしのなかで実感した中国のいま

深セン湾の夏(2023年7月撮影、視覚中国)

――約20年ぶりの中国駐在で実感したことは?

 赴任地の深センで一番実感したのは、高いビル群という目に見える形での発展は言うまでもないんですが、それ以上に、人々の価値観にこれまでとの違いを感じました。海外に出張したり、旅行に行ったり、駐在したりする中国人の方がどんどん増えて、ビジネスの感覚も国際的になっています。コンプライアンスや特許などに対しての感覚も大きく変わっているという印象が強く残りました。

上海・浦東陸家嘴地域(2023年11月撮影、視覚中国

 上海については、以前の浦東は「東方明珠」の奇抜なタワーがとても目立って見えた印象だったのですが、今ではあのビルもあんまり目立たなくなってしまうぐらいに、たくさんビルが建っています。でも、静安寺や人民広場の近くなどの裏道を歩くと、昔からの古い街並みもたくさん残っていました。良いところは残しつつ、どんどん発展していくというところが強い印象として残りますね。また、日本料理屋が多く、虹橋あたりを日本人が多く歩いていて、20年前よりも日本人の社会がものすごく大きくなっていることにもびっくりしました。

――余暇の過ごし方なども変わりましたか?

 今、中国人の価値観も生活レベルも日本と変わらなくなっています。いろんな会話をしていても、何の違和感もなく、普通の友達として接することができる。ですから、プライベート面でも、昔とだいぶ変わったなと思います。

 実は私、深センでサーフィンを始めたんです。それこそ20年前の中国では、サーフィンなんて誰もしていなかったと思うんですけど、今、深センではサーフィンをやる人が増えてきています。昔、駐在員たちが余暇を過ごすときは、外国人同士で遊んでいましたが、今はゴルフでも中国人の人と一緒にやったりします。私は深センで中国人のドラゴンボートチームに入れてもらっていて、一緒にレースに出たりしています。

 うまく溶け込んでやらせてもらえるということ。これもまたすごく良い形になったかなと思います。

――食べ物はどうですか。

 食べ物はどうでしょう(笑)?中国人の方もだんだん西洋の料理とかも食べるようになってきているとは思うんですけど、それでも、中国人は中華料理がお好きですし、20年経っても、やっぱり美味しい中華料理は変わらないですね。ファストフードも多くなっていますが、やはり今でも中国人は温かいもの、ちゃんと手作りのものを食べたいという気持ちがあるようです。そういう変わらないところがあって、すごくいいなと思います(笑)。

(聞き手・記事:王小燕、王穎穎 撮影:王巍 資料写真:住友電工提供)

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